伊藤貫「自滅するアメリカ帝国」②

 以下抜粋:

冷戦時代、共産主義陣営を相手として闘っていた時のアメリカは、他の諸国から「自由主義陣営の力強いリーダー」と見なされて、アメリカの政治イデオロギーをそのまま国際政治に持ち込んでも、西側諸国の賛同を得ることができた。しかしソ連帝国が消滅し、二極構造が終焉した世界で、自国のイデオロギーを・・・時に国連や国際法を無視し、圧倒的な軍事力にものを言わせて・・・他国に押しつけようとしたアメリカ外交は、多くの国から冷ややかな目で見られるようになった。

アメリカ国民が好む政治史と外交史の解釈は、”アメリカは、自由と民主主義を世界に広めため、常に高い道徳規範と政治的な理想に燃えて世界平和と繁栄のため偉大な貢献をして来た”という筋書きのものだ。米政府、教育機関、マスコミ人は、現在もこの理想化された歴史解釈をせっせとプロモートしている。この”美しき筋書き”は、多くのアメリカ国民にとってとても心地よく、満足できる歴史観なのだ。そして都合の悪い歴史的な事実・・・例えば先住民インディアンの大量虐殺、奴隷制度、メキシコ領土の大規模な強奪、アメリカの外交政策がラテンアメリ諸国に腐敗した独裁政権(傀儡政権)を押し付けて来たこと等々・・・は、なるべく触れないことになっている。最近、ロシア(エリツィン政権)に「ショック療法」と呼ばれるアメリカ製の経済改革プランを押し付けてロシア経済を破壊してしまったが、これもすでに「アメリカ外交の忘れられた史実」になっている。

バランスオブパワー政策の必要性を理解できない「勇気ある理想主義者」たちは、しばしば、アメリカの政治イデオロギーを受け入れようとしない異質な国(異質な文明、異質な体制)を、完全に破壊しようと試みて来た。彼らは、「理想的な国際秩序」を実現するためには、敵性国の婦女子を焼夷弾やクラスター爆弾によって大量殺害してでも、「完全な勝利」と「最終的決着」を求めようとする。リアリスト派のウォルター・リップマンは「アメリカ人は、”正義のための聖戦をしている”という幻想に自己陶酔しているから、世界中で際限もなく軍事介入したがる。いつになったらこの国は、虚栄心を捨てて成熟した大人の国となり、”軍事力の行使には限界がある”という当たり前の教訓を学ぶのだろうか」と嘆く。

アメリカは敗戦国日本に対してもディモナイゼイションと戦争責任追及プロパガンダを行った。占領軍の作成した憲法と米軍の日本駐留継続によって「日本人から、永久に自主防衛能力を剥奪しておく」とするやり方も同じである。(バージニア大学のメルビン・レフラーによれば、1947年の米国務省内部文書には「日本が独立国としての運命を歩むことを許さない。日本をアメリカの衛星国として存在させる」と記述されているという)このようなアメリカ外交のやり方の比べて、17~19世紀のヨーロッパ諸国は、「戦争に勝っても負けても、その国の道徳的な優劣とは無関係だ」というクールで実務的な終戦処理をしていた。戦争に負けた国が「道徳的に邪悪」なわけでもなければ、戦争に勝った国が「聖徳充ちている」わけでもない、というのが当時のヨーロッパ人の外交判断であった。ヨーロッパの貴族、外交官、軍人たちは、「敗戦国を一方的にディモナイズして永久の汚名を着せる。敗戦国から永久に自主防衛能力剥奪しておく」という復讐劇を演じてみせる必要性を感じていなかった。

正直なブレジンスキーは、アメリカの同盟諸国のことを「アメリカの家来と属国(vassals and tributaries)に過ぎない、と描写していた。ブレジンスキーは、「アメリカ政府は、アメリカの”家来と属国”を軍事的にアメリカに依存させることによって、これら諸国がアメリカの命令に従わざるを得ない仕組みを維持するのだ」と主張していた。

世界を一極構造に作り変えてアメリカだけが世界を支配するという冷戦後のグランド・ストラテジーの実態をそのまま率直に語るのは、アメリカの外交政策エスタブリッシュメントにおいて、「マナーが悪い」もしくは「あまりにもナイーブな振る舞い」と見なされる。本音では「アメリカが世界中の国を抑えつけておき、世界諸国をアメリカの利益になるよう利用したい」と思っている時も、それをパブリックな場で表現する時には「同盟国や友好国との協力を促進し、戦略的な互恵関係を築いていく」とか「他国がより適切な経済運営ができるように、米政府と米金融機関が協力していく」とか「他国の安全保障と地域的な安定を確保するために、アメリカの軍事力を国際公共財として提供する」といった表現を使う。

ニアル・ファーガソンは「アメリカ政府は不正直だから”アメリカが世界覇権を握る”という現在の国家戦略に関しても国民に正直に説明して彼らの同意を得ることができないのだ」と解説している。「米国民の同意を得ることなくして始めた帝国主義的な戦略は長続きしないだろう」とも。

米政府の「民主主義を世界中に広めよう!バルカン半島、コーカサス地域、中東、中央アジアの独裁制を倒して、これら諸国に民主主義を実現しよう!」という一見、”誰も反対できない立派な主張”にも、「アメリカ外交・・・そしてCIAによる秘密の介入工作・・・によって反米的な諸国をレジームチェンジさせて、アメリカの国益にとって都合のいい一極覇権構造を作りたい」という隠された外交戦略が潜んでいることが多いのである。

国際政治史と法制史の学者は、「非西欧世界に民主主義が根付くには少なくとも次の3つの条件がs整っていなければならない」としている。

①国民に法治主義を守る習慣が根付いていること

②有能な官僚制制度が整っていること

③裁判制度が政治権力から独立していること

これら3つの条件が整っている場合にのみ、民主主義はユニバーサルな政治体制と言えるのである。ロシア、ウクライナ、コーカサス諸国、イラン、イラク、アフガニスタン、パキスタン、中央アジア諸国、中国、アフリカ等にはこれらの条件が備わっていない。

>>日本だって備わってない。有能かどうか不明だが官僚的な官僚だけはいるが、法治主義ではなく裁量と忖度主義だし、裁判所と検察と政府は三位一体だ。

米政府(クリントン政権)がアフリカで起きている大規模なジェノサイドを無視し、その一方でバルカン半島の小規模な民族扮装に軍事介入した理由は、アメリカの地政学的な利益(勢力圏拡大政策)にあった。クリントン政権が本当に興味を示したのは、”ならず者国家”の人権侵害やジェノサイドを主権制限論を使って処罰することではなく、「セルビアの残虐行為を処罰する」という人道的な名目のもとに米軍をバルカン半島に出動させて、冷戦期にロシアの影響力が強かったこの地域を、アメリカの勢力圏に取り込んでしまう事だった。
>>アメリカがアフリカを無視している間、中露がアフリカに手を出した。アメリカがどこの国、どこの地域に介入するかではなく、逆にアメリカが手を出さない国、地域に目を向ける、というのは日本も見習うべきだろう。

1990年代の初期から「アメリカ覇権による世界一極化」を目指してきたアメリカは、21世紀になると

①イラク、アフガニスタン、パキスタン、イエメン、ソマリア等、複数のイスラム諸国において長期的なゲリラ戦の泥沼状態に陥り、

②イスラエル軍による国際法違反のパレスチナ占領と領土窃盗、パレスチナとレバノンの民間人の大量殺害を盲目的に支援し続けたことにより、世界15億のイスラム教徒の嫌米感情を激化させ

③旧敵国ロシアとも、中近東、コーカサス地域、黒海沿岸、中央アジア地域で再び勢力圏争いを開始し、

④アメリカ製の不良金融商品を世界中の金融機関に大量販売して世界的な金融大恐慌を巻き起こし、

⑤アメリカの巨大な財政赤字と経常赤字をファイナンスするため、真の資産の裏付けを持たないペーパーマネー(米ドル)を3年間で2兆ドルも増刷して国際通貨市場に注ぎ込み、一方的な通貨切り下げ政策を実行して国際通貨システムを混乱させ、

⑥無気力・無責任な対朝政策によって北朝鮮の核弾頭増産を放置し続け、

⑦近視眼的な対中宥和政策を採用することによって勃興する中華帝国の歴史的に前例のない大軍拡をカウンター・バランスすることに失敗した

米政府はしばしば偽善とダブルスタンダードに満ちた二枚舌外交を実践するが、中国の政治指導者と外交官たちは、ペラペラとよくしゃべる舌を二十枚くらい持っている。国際政治において、アメリカと中国が騙し合いゲームをすればほとんどの場合、勝つのは中国である。

>>やっぱり何千年も権謀術数に明け暮れて来た中国は舌戦・仲間づくりには強い

1930年代の日本も、「日中間の条約を守ろうとしない卑劣で嘘つきの中国人を懲らしめる」という”道徳的に立派な目標”を掲げて中国大陸における戦争を拡大し、バランス・オブ・パワー計算を無視した軍事政策を実行した。その結果、日本は日本を包囲する三覇権国(米中露)を全て敵に回して戦うという、外交を実践してしまった。外交政策と軍事政策に”道徳的に立派な目標”を持ち込むとしばしば大失敗するのである。”理想追及の外交”は要注意だ。

>>正義は国を滅ぼし、会社も滅ぼす

冷戦後のアメリカの6つの重要な国防項目とは、

①米国本土を守る

②アメリカによる世界支配にとって最も重要なユーラシア大陸の三地域(ヨーロッパ、中東、東アジア)を米軍が支配し続ける

③ロシアと中国が、アメリカに挑戦できる能力を持つライバルとなることを防ぐ

④経済大国となった日本が自主国防能力を持つことを阻止する

⑤NATOを維持することにより、ヨーロッパ共同体に独立した軍事力を持たせないNATOを、アメリカの世界支配の道具として活用する

⑥核兵器拡散を阻止する既存の核武装国による核兵器独占体制を長期化させる

オサマ・ビン・ラディンが宣言したように、イスラム教原理主義ゲリラの戦略的な目標は、「アメリカをイスラム教諸国における長期の泥沼戦争に引きずり込み、国力を浪費させ、アメリア経済を疲弊させる」ことである。(ビン・ラディンは2011年春、米軍特殊部隊に射殺された、しかし彼は「アメリカの国力を巨大に浪費させる」という戦略目標を実現することに成功した。)米軍が個々の戦闘においてイスラム教ゲリラ戦士を徹底的に殺戮し、「百戦百勝」しても、アメリカによる長期的な世界支配と国際構造の一極化にはつながらない。ケナンやスコウクロフトが説いたように、賢明なバランス・オブ・パワー戦略とは、発展途上諸国におけるゲリラ戦や国家建設の作業に巻き込まれることを最初から避ける戦略なのである。2004年から2010年にかけて、ブッシュ・オバマ両政権が非正規的戦争を最重視する国防戦略を選択したのは、明らかな失策であった。

>>アメリカに勝ったベトナムを見習って、イスラム諸国も個別の戦争ではアメリカに負けても、アメリカを疲弊・消耗させようとしている・・・イスラム教徒の、命を捨ててアメリカを消耗させようという戦い方は、ある意味、特攻隊と似ている。日本人もこの戦い方ができるだろうか?

過去200年間の米軍によるアメリカ・インディアン、フィリピン、日本、朝鮮、ベトナム人に対する大量殺害行為は、「敵軍と適性国民を物理的に消滅」させてしまおうとする「アメリカ的な戦争」なのであった。最新の軍事技術と兵器の大量生産を信奉するアメリカは、1950年代から80年代にかけて、軍事的な視点からは全く不必要な核兵器の大量配備に熱中していた。米空軍とランド研究所の戦略家たちは、実際の戦争に使えるわけでもないのに、何万発もの核弾頭を製造して「実戦用に配備する必要性」を主張していたのである。

>>ここに、戦争に負けた日本の自己目的化傾向と同じものを感じる。神業をもったパイロットが操るゼロ戦は1対1ならアメリカ機に勝った。しかし、時間がたつにつれ、神業パイロットはいなくなり、ゼロ戦もなくなっていった・・・国民・国力を総動員して行う戦争に負けた。ゼロ戦は一対一で勝つことを自己目的としていた。アメリカの核弾頭も増やすことが自己目的化したが、一発も使われなかった。

筆者が支持してきた核戦略理論とは、「どの国も潜水艦に分散して搭載しておく200発程度の核弾頭を持てばそれで十分な戦争抑止力として機能する。それ以上の核弾頭を所有することは無駄である」というミニマム・ディテランス戦略である。冷戦時代、実際に使えるわけでもないのに何万発もの核弾頭を製造し、実戦用に配備していたアメリカとソ連の軍人の思考パターンは異常なものであった。

敵国からの先制攻撃によって破壊されない数十発の核弾頭・・・潜水艦に分散して搭載しておく数十発の核弾頭。もしくは山中のトンネルや地下軍事施設に分散して秘匿しておく数十発の核弾頭・・・を所有している軍事小国は、数万発の核弾頭を持つ軍事大国に対抗できる。アメリカでも自国が先制攻撃をかけ、それに対する報復としてたった一発の核弾頭を自国の大都市に撃ち込まれる可能性を予測するだけで、先制攻撃をかける意欲をなくしてしまう。

>>これは、少々反撃されても構わないから、敵国人を100%殺して滅ぼそう、という国には通用しない。例えば中露はそういう国だ。狭い国土しかない日本は米中露といった広大な国土を持つ国の国民を100%殺して滅ぼすことはできない。

2006年秋、北朝鮮が最初の核弾頭の実験を行った途端にブッシュ政権は・・・日本の抗議を無視して・・・北朝鮮に対して露骨な宥和政策を取り始めた。アメリカは北朝鮮に対する経済制裁を解除し、「北朝鮮の核兵器製造施設に対する査察を要求しない。北朝鮮の所有するウラン濃縮施設の存在を議題に乗せない」と非常識な条件を付けて米朝国交正常化へ向けた二国間協議を始めた。東アジア地域において日本だけを「Noと言えない非核国」という不利で危険な立場に置いておこうとするのが、「日本と自由主義、民主主義の価値観を共有する」米政府の対日政策だ。

RMA(Revolution in Military Affairs)提唱者たちが特に強調したのは、「核ミサイルや戦略爆撃機による攻撃と違ってRMA兵器による戦争は、一般市民を大量殺害せずに敵国の中枢部だけを迅速に破壊できる」という点であった。つまり「戦争プランの企画が容易で予測可能性が高く、大量のアメリカ兵を動員する必要がないから効率的で低コストである。しかも敵国の民間経済に大きなダメージを与えることなく指導者層だけをターゲットとして破壊できるからレジームチェンジが容易である」

RMAがなくてもソ連軍はアフガニスタンを占領できた。イスラエルも1982年RMAを使わなくてもレバノンを占領した。今回の米軍によるイラク占領も、RMAを使わなくても実行できた。しかし、本当に重要なことは戦争に勝つことではなく、”勝って占領したあとに、どうするのか?”ということなのだ。RMA兵器を占領地における対ゲリラ作戦に使用してもその効果は限られている。孫氏とクラウゼヴィッツにとって戦争に勝つこと自体はそれほど価値のある行為ではなかった。彼らにとって戦争や武力行使は「政治的な価値と目的を実現するための手段」でしかなかった。冷戦後のアメリカのように、国家の指導者層の構想したグランド・ストラテジー間違ったものである場合、RMA兵器を頻繁に使って個々の戦争すべてに勝ってみせても、そんな「連戦連勝」には永続性のある戦略的な価値がない。RMAを使ってイスラム教原理主義のゲリラ戦士をすべて殺戮すれば、それによって世界中のイスラム教諸国が「平和を愛する民主主義国家」となり、アメリカやイスラエルの一方的な命令にひたすら服従するようになる、とでも期待しているのだろうか?

>>RMAでイランの最高指導者は殺されたが、イラン国民はむしろ、それで戦闘意欲が高まった可能性がある。イランはもともと個別の戦いでアメリカに勝つ気はない。身を捨ててアメリカを消耗戦に誘込もうという腹だ・・・仮にイラン国民が全滅しても他の国にいるイラン人(ペルシャ人)やイスラム教徒による反アメリカ・イスラエルの連帯が強まると信じている。イランはそれを身をもって証明した。イランに攻められたアメリカ基地のある湾岸諸国はイランは嫌だが、同時にアメリカも嫌になった。どうするんだろうか?中露が手を出すだろう。日本も明日は我が身だから、湾岸諸国に近づくべきではないか?

21世紀の国際政治の多極化が不可避である要因

①過去3千年間の国際政治に繰り返して現れた基本的なパターンとは、「ある特定の国が他の諸国を支配できる覇権を握ろうとすると他の諸国がその動きをカウンター・バランス(阻止・牽制)する」というものであった。「国際政治の基本的な行動様式はバランス・オブ・パワーである」と言われてきたのはそのためである。

②アメリカの経済力が今後も相対的に衰退していくこと。アメリカのGDP は第2次世界大戦直後、世界の50%であった。しかし1970年には3割に落ち、現在は約2割である。しかも、2011年から始まったベビーブーム世代の米国民(約78百万人)の引退のため、2016年以降の財政赤字・経常赤字は急激に増大していく。2020年代の後半になると米経済の世界経済におけるシェアは15%以下になり米ドルは国際準備通貨としての地位を失うだろう。

>>このシナリオを前提に、各国は徐々に米ドル依存から脱しようとしている。米ドル資産を売って金を買っている。

③今後30年間に起きるアメリカの人種構成の急激な変化。2020年代の中ごろにアメリカの青少年の過半数は非白人になり、2042年頃に、アメリカ人口の過半数が非白人になるという。

④冷戦後のアメリカの外交政策と軍事政策にみられる顕著な偽善性とダブル・スタンダードのため、アメリカ外交が知的・道徳的なクレディビリティーとレジティマシーを失った
>>トランプは偽善をやめた。分かりやすくはなったが、益々嫌われ、信用を失った。

⑤中国の目覚ましい台頭による国際構造の多極化。IMFや世界銀行は実質経済規模(為替レートで計算した名目GDPでなく、購買力で計算した経済規模。つまり実際に生産し消費している財とサービスの総量)は2015年か2016年頃中国がアメリカを超えて世界一になると予測している。2020年代に経済力が世界一になる中国は世界一の軍事予算を持つ国になるであろう。東アジア地区のバランス・オブ・パワー環境は中国優位、米国劣位になる可能性が高い。

>>アメリカは台湾はもちろん、日本やフィリピンも捨てるだろう。アメリカ抜きでどうやって中国に抵抗するか?ただし、いざとなったら、中国はアメリカと違ってどんな大きな犠牲を払ってでも他国を侵略するだろう。反中反米国諸国は連帯する必要がある。

⑥現在のロシア政府は中央アジア諸国、白ロシア、ウクライナ、モルドバ、グルジア、コーカサス地域、黒海沿岸地域をもう一度ロシアの勢力圏に編入しようと努力している。19~20世紀のロシアはナポレオン、ヴィルヘルム2世、ヒトラーの拡張主義と真正面から衝突して巨大な犠牲を払ってフランスやドイツによる一極覇権の確立を阻止した。

⑦インドの台頭。独自の核戦力と海軍力を強化し毎年7~8%レベルの経済成長をしているインドは、国際政治における「独立した大国」として行動する実力を蓄積している。インド人口は、2040年代後半まで高齢化しない。

>>対中政策・・・印露と仲良くするしかないか?

⑧ヨーロッパ文明圏の離米化とNATOの弱体化。NATOの加盟国であるヨーロッパ諸国はアメリカの主導するアフガニスタン戦争に表面的に協力する政策を取って来たがヨーロッパ諸国の7割以上がアフガニスタン戦争に反対してきた。ヨーロッパ人の多くは「アメリカとイスラム教諸国との紛争に我々の兵隊が巻き込まれるのは嫌だ」と感じているのだ。中近東地域におけるNATOの最重要メンバーであるトルコも、国際構造の多極化を推進する外交を大胆に実行している。この動きもNATOを長期的には弱体化する。

⑨アメリカのイスラム教諸国に対する外交政策の失敗。ウイルソン政権以降のアメリカは、「世界の民主化と自由化を進める」という「アメリカ外交の大義」を掲げて来た。その一方で、CIAは1953年、イランでクーデターを起こして現地の民主体制を破壊し、傀儡政権を押し付けた。アメリカは中近東の十数か国においてアメリカの国益増強のため、腐敗した独裁政権を操って来た。1967年以降、イスラエルが国際法違反の侵略とパレスチナ・レバノンの民間人殺害を繰り返すと、アメリカはイスラエルに対する軍事援助と経済援助を急速に増やした。アメリカはイスラム教諸国の国民をわざわざ怒らせるような外交を繰り返してきたのである。

ロバート・ギルピンの著書"War & Change  in World Politics(1981)"と"Political Economy of International Relations(1987)"において言っていること:

①帝国(覇権国)の経済成長スピードは必ず鈍化して行く。帝国をキャッチアップしようとする後発国(挑戦国)の経済成長率は先発の帝国より高い。生産技術・経済情報・経営ノウハウ等の拡散を止めることはできないから、後発国は常に最新の技術と情報を活用して速いスピードで先進国の経済生産レベルに追いつく。中国政府が経済改革を開始したのは1980年代初期であるが、30年たたないうちに中国の自動車市場、コンピューター産業、家電産業…の規模は世界一になり、中国の総輸出額、毎年の資本蓄積量、外貨保有量も世界一になった。その一方、慢性的に過少貯蓄構造となったアメリカは、世界最大の債務国に転落し、中国政府から毎年、巨額の借金を繰り返さなければ自国の財政運営すらできなくなった。既成の国際秩序にチャレンジし、国際秩序を自国にとって有利なものに変えようというのは、17世紀~18世紀のイギリス、1890年以降のアメリカ、ドイツ、日本、1930年~1970年代のソ連、最近の中国の外交行動パターンだ。

②勢力圏をひたすら拡大しようとする帝国主義的な国家戦略には「限界効用の低減」という現象がみられる。ある一定のポイントを過ぎると、むやみに勢力圏を拡大しようとする政策は、コストがかかり過ぎてリターンが少ない効率の悪い政策になってしまう。覇権国は国際政治における自国の優越した地位を維持するために、軍事費・対外援助費、同盟関係維持費、等を使わなければならない。これらの活動にかかるコストは経済的な見地からは、生産性の高い国家予算の使い方とは言えない。覇権の維持は非経済的な要素が強くなる。十分な経済的余力・・・経常収支の十分な余剰・・・のある国だけが覇権主義的な外交政策と軍事政策を実行する能力を持っている。戦前の日本の4つの対外政策・・・日韓併合、対中21か条要求、満州の植民地化、日中戦争・・・は、日本にとってコストが高すぎてリターンの少ない不必要な行為であった.しかもこれらの行為によって日本を包囲する三覇権国(米ソ中)を同時に敵に回してしまった。つまり「国家の勢力圏には適正規模がある。適正規模を超えて自国の勢力圏を拡張しようとすると、外交トラブルに巻き込まれる」

③勢力圏拡大と覇権の強化を目指す帝国は、外交コストと軍事コストが過大な政策を実行しようとするようになる。そのような帝国の国家財政はほとんど必然的に困窮して行く。ローマ帝国、スペイン帝国、フランス帝国、大英帝国、オーストリア・ハンガリー帝国、オスマントルコ帝国、ソ連帝国、歴代の中華帝国はすべて、その帝国末期に国家財政の経費過剰と税収不足に苦しんでいた。1930年代の日本帝国も慢性的に財政事情が悪かった。冷戦後のアメリカは一時的に景気を刺激するために株式バブルとIT投資バブル(クリントン)不動産バブルと金融商品バブル(ブッシュ)を作り出して税収を短期的、人為的に増やすという不健全な経済運営をして来た。最近のアメリカ経済政策は、「国内で消費バブル・投資バブルを作り出し、海外から大量の資本を引き入れて人為的に景気を高揚させる」というやり方であり、長期的に維持できる経済運営ではない。「新興国は覇権国の真似をして軍事力を強化して行く。従って既存の覇権国はその対外影響力を維持するためにより多くの軍事費と外交関係費を使う必要に迫られる。つまり覇権国の維持コストは時が経つとともに上昇して行く。その一方、覇権国の国民には、過剰消費、過少貯蓄の傾向を強めて行くパターンが見られる。従って覇権国の財政構造は、国内における過剰消費と海外における覇権維持コスト上昇のため、着々と悪化して行く。しかも、覇権国の国内政治においては政府支出の優先順位に関する争いが激化してゆくため、階級闘争や社会紛争を巻き起こすことが多くなる。

冷戦という二極構造は、「異常なほど安定した国際システム」だった。世界の諸民族のナショナリスチックな野心、覇権欲、征服欲、プライド、嫉妬、怨恨、復讐心は「米ソ陣営の対立」という二極構造によってがっちりと鉄のタガがはまって自由に発露できない状態だった。キッシンジャーは「21世紀に顕在化する多極構造の世界ではナショナリズムがもう一度重要な役割を果たすであろう。今後の世界諸国は自国の国益増強を最優先させる外交政策を実行し始めるだろう」と言う。

アメリカの一極支配が不可能な理由

①アメリカが通常戦力にどれほど巨額の予算をつぎ込んでもアメリカは他の8核武装国と戦争できない。

②アメリカの軍事力がどんなに強くても、反米的な弱小国は非対称的、非正規な戦争方法(ゲリラやテロ)を使用することにより、アメリカによる世界制覇に対する長期間の抵抗を継続できる。史上最強の軍隊である米軍は長期のゲリラ戦争に勝利する力を持たない

③アメリカは現在の兵員規模の陸軍と海兵隊で世界の重要地域を支配することはできない。しかも、米政府の世界支配戦略は国民の理解と支持を得ていないため、この戦略を遂行するのに必要な徴兵制を採用することは政治的に不可能である。自国民の反発を恐れて徴兵制さえ実行できない国が「世界中の国を支配したい」という覇権願望をもつのは非論理的である。

④2011年以降のベビーブーム世代の大量引退のため、米政府の財政は着々と悪化する。2020年代になると、米政府は「米軍が中東と東アジア地域を同時に支配し続ける」という現在のグランド・ストラテジーをギブアップせざるを得なくなる。

ジョン・ミアシャイマーいわく「核兵器は他国に対する侵略行為に使うのにはあまり役立たないが、他国からの軍事攻撃を抑圧するには高い有用性を発揮する。核を持つことにより核武装した大国と小国との関係は実質的に対等な関係となる。中露米三か国の核兵器に脅かされる現在の日本には、自主的な核抑止力が必要である。現在の日本の安全を守る一番よい方法は核を持つことである。日本が核を持つようになれば、中国の日本に対す軍事行動はもっと慎重になる」バーナー・ブローディーいわく「核保有国はお互いに対して宥和政策を取らざるを得なくなっている。”お互いの勢力圏を破壊するのは避けよう”という暗黙の了解が核保有国の間にある。」

日本にとって必要な自主的核抑止力とは約200基の単弾頭、核ミサイルと、それらのミサイルを搭載しておく20隻程度の通常動力型潜水艦そして核ミサイルを運用する運用するための軍事衛星、レーダー、ITシステム等である。これら装備にかかる軍事予算は日本の毎年のGDPの0.1~0.2%程度に過ぎない。通常兵器による戦争抑止力が非常に高価なのに対して核兵器による戦争抑止力は格段に安い

核保有国が核保有国を増やしたくないのは他国に安価な核兵器による独立した戦争抑止力を持たせないためである。

アメリカが日米戦争と朝鮮戦争において、「爆弾を豪雨のように降り注ぐ」という戦争方法・・・明白な戦争犯罪・・・を実行してもほとんど問題にならなかった。当時はテレビの実況中継が存在していない時代であったから米軍がどれだけ大規模な民間人の無差別殺害を実行しても、戦地にいない人たちにその残虐性が直接伝わることはなかった。しかし、ベトナム戦争では、事情が違っていた。世界中の国で一般市民が夕餉の席でテレビを見ながら「陽気で勇敢なアメリカン・ボーイズが恐怖で顔を引きつらせて必死になって逃げ惑う非武装のベトナムの婦女子に大量のナパーム弾とクラスター弾を浴びせる」というニュースを生放送で「鑑賞」できるよになったのである。

アメリカは「テロは民間人の無差別虐殺だ。絶対に許せない」と宣言してきた。しかし今までアメリカの空爆やミサイル攻撃によって他国の民間人を殺害してきた行為は、テロではなかったのか?

米陸軍は戦争するための軍隊として作られている。他国を占領するために作られた軍隊ではない

親イスラエル勢力が強いアメリカの大手マスコミ機関は過去8年間の米国民の厭戦感情を過少報道してきた。イスラエル政府と米国内のイスラエル・ロビーが、「アメリカのイスラム教諸国に対する軍事介入を今後も長期間継続させたいと望んでいる」からである。

レーガン政権時代の米陸軍には78万人の兵士がいた。冷戦期のアメリカのグランド・ストラテジーは「米軍がユーラシア大陸の3重要地域・・・西欧・中東・東アジア・・・を支配することによってソ連陣営を封じ込めておき、アメリカが世界を支配する。これら3地域のうちの2か所で同時に戦争が発生した場合に備えて、アメリカは二つの地域で大規模な戦争を遂行し、勝利するのに必要な軍事力を維持する」というものだった。そのために必要な米陸軍の規模は最低でも78万人、と計算されていた。しかし、冷戦終了後、クリントン政権は次世代兵器開発予算は減らさなかったが、米陸軍の規模を75万人から48万人に減らした。志願制による兵士はコストが高いので人件費のカットを優先した。RMAがあるからと兵士削減に拍車をかけ、米軍全体の兵指数も200万人から140万人へと低下した。中国や北朝鮮は徴兵制を利用して安い兵隊をいくらでも、使い捨てできる。アメリカは今後、多数の陸軍兵や海兵隊員が敵地を長期占領しなけれなならない戦争を避けなけれなならない。

2011年以降アメリカのベビーブーム世代が大量に引退し始めるから税収は減り、老人医療費と年金の国家負担が急増する。一方でアメリカの勤労者(18歳~64歳)の人口はたった18%しか増えない。しかもこれら勤労者増加のほとんどは、平均所得の低いヒスパニックと黒人労働者である。2020年代の前半もしくは2010年代の後半に財政危機に陥る米政府は軍事予算を大幅にカットせざるを得ない。

アメリカは恒常的に自国の発行する赤字国債の半分を外国の政府と金融機関に購入してもらわなければ財政運営ができない。

人口のヒスパニック化のトレンドは、平均貯蓄率、平均学力、労働生産性、社会治安、福祉依存率等にネガティブな影響を与えると言われている。ヒスパニックの大部分は中南米諸国の出身であり、自分たちの祖国が19~20世紀米政府の「砲艦外交」と米陸軍・海兵隊による武力干渉の犠牲となったことを明確に覚えている。

>>だからトランプはヒスパニック移民を嫌う。

過去20年間、米金融業者の政治資金の7割が民主党側に流れ込んできたことを考えれば、クリントン・オバマの「金持ち優遇」政策は当然である。貧富の差が顕著となり、30年間も実質所得レベルが低下もしくは停滞してきた約6割の国民の間に深刻な経済不満が蓄積しているアメリカは、今後、保護主義的通商政策と孤立主義的外交政策に戻る可能性が高い。アメリカは1930年代まで保護主義と孤立主義の傾向が強かった。

2011年、全米の数十の都市において「金融街を占拠せよ」という抗議運動が発生したが、その参加者のほとんどは2008年の大統領選でオバマに投票した人たちだった。彼らは「庶民の味方」と政治宣伝してきたオバマが(共和党政権よりも露骨に)貧富の差を拡大させる政策を実行したことに憤慨した。

オバマは「核廃絶の理想」を提唱してノーベル平和賞を受賞したが、その一方で彼はアメリカの次世代核弾頭開発予算を3年間連続して前共和党政権よりも増額している。

>>トランプの見え透いた嘘は、オバマやバイデンの嘘(フェイク)を真似してるだけだ、と言いたいのかも。「あのオバマが平和賞もらったんだぜ。悪い冗談だ。それなら俺にも・・・」ってか?

今後10~15年以内に米ドルは国際準備通貨としての地位を失い、アメリカは「毎年他国の中央銀行と金融機関にアメリカの赤字国債を強制的に購入させて自国の財政赤字と経常赤字を低い利子率でファイナンスさせる」(米ドルを大量に増刷して通貨市場で通用させ、毎年、巨額の借金を繰り返す)という、当方もない特権を失う。

>>アメリカの魅力・経済力・軍事力(=国力)が落ちるから米ドルが売られる→米ドルが基軸通貨でなくなる→益々米ドルは安くなる

コメント

このブログの人気の投稿

IQ188という記録で注目を浴びた太田三砂貴(おおた・みさき)さん

”関口宏の一番新しい近現代史”を見る

東京ドームでのアトラクション遊具の事故に思う