芥川龍之介「ひょっとこ」「玄鶴山房」
芥川龍之介「ひょっとこ」より抜粋: 平吉はそこに二十歳までいる間に店の勘定を誤魔化して、遊びに行ったことが度々あるが、その頃、馴染みになった女に、心中してくれと云われて弱った覚えもある。とうとう一寸逃れ(いっすんのがれ)を云って、その場は納まったが、後で聞くとやはりその女は、それから三日ばかりして錺(かざり)屋の職人と心中していた。深間になっていた男がほかの女に見かえたたので、面当てに誰とでも死にたがっていたのである。 >> 京橋生まれの芥川が日本橋だか吉原を描いた江戸情緒を彷彿させる面目躍如の文章。しかし23歳でこれを書くってんだから、早熟の天才。「一寸逃れ」という言葉はいかにも江戸弁。 「玄鶴山房」より抜粋: 二両の馬車は霜解けの道をやっと火葬場に辿り着いた。しかしあらかじめ電話をかけて打ち合わせて置いたのにもかかわらず、一等の竈(かまど)は満員になり、二等だけ残っているという事だった。 >>火葬場の「おかま」(?)のことを「かまど」と呼ぶのも面白いが、一等とか二等があったとは初めて知った。