伊藤貫「自滅するアメリカ帝国」①
伊藤貫「自滅するアメリカ帝国」を読む。2012年に出された本だが、「2020年代はこうなってるだろう」という予測がかなり当たっているのには感心する。著者が指摘しなかったことを2つ挙げる。
①アメリカの民主主義(=選挙及び国内世論)は戦争抑止効果があると思われるが、このことを指摘していない。世論なんてその気になれば簡単にコントロールできる、ということかもしれないが、大統領は選挙や世論のことを考えて、あんまり長い間戦争できない、あんまり自国の兵隊を殺せない。つまり、短期間に、関わる人を少なくして”効率的に”敵国を攻撃しなくてはならない。それが核兵器その他、効率的な兵器の開発・使用につながった。
②著者は、戦争の目的は政治的目的、すなわち”外国を征服し占領し、支配しようとすること”としている。単に”敵国の国民全員を一人残らず殺して滅ぼす”という戦争目的はないのか?例えば、その国の天然資源をよこせ、と言って拒否されれば、その国の国民を皆殺しにして天然資源を奪う、というようなことだ。そうすれば、戦争はそこで終わり、占領する必要もなくなる。アメリカは傀儡政権を作ったり、属国化したり、と面倒な手続きを踏んできたが、抵抗するような人はひとまとめに殺してしまう、という方が”効率的”ではないか??
上記②をアメリカはまだ実行しない。独裁国家(選挙による政権交代がない国)になれば実行できるようになる。一方で、著者の信じるところによれば、「ある特定国が世界を支配できる威圧的な覇権を獲得しようとすると、必ず他の諸大国がその動きをカウンター・バランス(牽制・阻止)する」というのが、過去500年間の国際政治で何度も繰り返されたパターンだった、と。著者の言う事が正しければ、仮にアメリカが独裁国家になって国内世論は無視できても、国際世論、他国の動向は無視できないから、アメリカは資源欲しさに他国民を全滅させるような乱暴なことはしない、ということらしい。確かに中露はカウンター・バランス(アメリカをけん制するおもり)だ。
21世紀の米中露の関係は、かつての冷戦のように「どっちが世界を支配するか?」みたいな単純でナイーブなものではない。「縄張りを決めて、その中で何をしても互いに干渉しない」という風な談合が成り立つように思う。どっちの縄張りに入るか?あるいは核兵器をもって、どこにも属さない独自の道を歩むのか?そんなこと、日本人に考えたり、実行できるんだろうか?(下手したら、インドなんかも「極」に加わって、もっとややこしくなるかも)
冷戦は世界中の国々が、片やアメリカ、片やソ連の旗印の下に集まり、「どっちが強いか、どっちが勝つか」と覇を競っていた時代。著者によればこんな2極対決なんて史上珍しいことで、大体は、多極で争うもんだ、と。そんな昔のことは知ろうともせず、昔を馬鹿にし否定するアメリカは、ソ連が崩壊したら、「”勝った”と舞い上がり、ガキ大将になり世界制覇を目論んだ」と。冷戦の真っ最中は、敵をやっつけるためならどんなことを言ってもしても味方から反対されなかった。アメリカは片一方のガキ大将でいられた。冷戦が終わると、ガキ大将を卒業して学級委員にならなくてはならなかったが、アメリカにそれを教える国もなく、また、アメリカも聞こうとしなかった。これが間違いその1。間違いその2は中国はレジームチェンジするだろうと思って資本主義や市場経済を教えたが、レジームチェンジせずに、国際的な市場経済の仕組みの重要なピースとなってしまったこと。
この二つの間違いでアメリカの世界制覇は不可能となり、多極(当面は米中の二極)の単なる一極になろうとしている…というのが著者の意見。
閑話休題:
米ドルは基軸通貨だった。米ドルが基軸通貨(=国際取引が米ドル建て)だと、米国以外の国々は、米ドル(=米ドル債)を買わざるを得ない。最近、アメリカはロシア、中国、イランなどに対して経済制裁したが、アメリカの制裁を受けた国々は米ドルを嫌いになったり、国際取引に米ドルを使えなくなって米ドルから人民元や暗号資産や金などに切り替え、米ドル需要が減っている。アメリカから制裁されているか否かに関係なく、アメリカの政治や経済や産業の将来が危ういと考え始めた各国中央銀行も米ドル債を売り、金を買い増している。つまり、アメリカは借金したくても借金できなくなりつつある。借金できなくなれば、増税するしかない。関税なり、所得税を増税すれば、増税された国・人はアメリカ政府に反発する。アメリカは嫌われ、その将来はますます危うくなる。こうなると、アメリカを世界一にとどめる起死回生のテクノロジーは、AI、宇宙だ、となる・・・
しかし、歴史を学ばず、昔のことを無視あるいは否定して成り立って来たアメリカが一番強い、ってのはややこしい。テクノロジーが人間を支配してきた20世紀だから起こった奇観とでもいうべきか?それとも、21世紀もアメリカの世紀だろうか???
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