姉崎嘲風「預言の藝術」(明治43年)より

 (前略)心は現在のみに活きない。感覚は外界の印象を得、理会は外界と内心とを結びつけ、記憶は過去の我を今に活かし、予想は未来を與(あた)へ、感情は人と人とを結びつけ、而して意志努力は生命の発展に向かって働く。仮令(たとえ)人は愛情の他に怨情(えんじょう)、嫉妬、復讐の情があるにしても、此等はつまり、自分と他人との間に何か共通の生命があるのを根本に仮定してをるしるしで、石地蔵に対して怒ったり怨んだりするものはなく、人は人に対してのみ愛情なり憎悪なりを抱く。茲(ここ)に人心共通の生命があり、人生の孤独でない証拠がある。(略)失意失望という事が既に未来に対する希望、理想に対する憧憬の反面を示してをる。

かくして人は現在のみに活きず三世に亙(わた)る生命を得、独りのみで存在せざる他人と共に生活する・・・三世とは現在過去未来のこと。

「人は一人では生きて行けない」という言葉がある。他人の世話にならないと生きて行けない(=共存、共生しなければならない)という風にも解釈できるが、いくら一人で生きたいと思っても必ず他人がいて無視できない、とも解釈できる。他人と没交渉でいようといして口をきかなくても目をそらしても他人が存在することに違いはない。嫌でも他人は存在し、時は過去から未来に向かって流れる。この事実を忘れちゃあいけないよ、というアドバイスだ。

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