10年前に、私は「楽天のビジネスモデルは今後行き詰まる」と指摘した。すると、三木谷会長兼社長本人が抗議にやってきた。私は根拠を示しつつ指摘についての説明を述べたが、結局彼は納得いかない表情で帰っていった。
楽天市場とアマゾンの違い
当時指摘したのは、楽天市場とアマゾンの違い。楽天はECの黎明期である1997年に、当時アメリカで流行していた「ジオシティ」というコンセプトをモデルに、仮想のショッピングモール「楽天市場」をインターネット上につくった。ユーザーが出店している店舗から商品を買い、楽天は手数料で利益を得るビジネスモデルである。
このビジネスモデルの問題点は2つある。1つは物流を握っていないこと。商品を届けるのは第三者依存で、自社ではコントロールができない。
もう1つは、売り上げが立たないこと。商品が売れて取扱高が膨らんでも、楽天市場自身は場所貸しにすぎないので、計上できる売り上げが小さい。
それに対して、00年に日本でEC事業を開始したアマゾンは、自身が企業から商品を買って倉庫に在庫を持つ。このモデルだと物流を管理できて、売り上げも立つ。アマゾンがウォルマートと競い合う世界最大規模の小売業者になったのは、単なるサイバー上の場所貸しにならなかったからである。
三木谷会長兼社長には、ビジネスモデルを見つける才能はある。時代を先取りして、楽天市場というECをつくった嗅覚はさすがだ。しかし、その後アマゾンが出てきたときに、両者のビジネスモデルの違いを理解できなかったのだ。アマゾンの進出時から対抗手段を打っていれば、今ほどEC事業で差をつけられることはなかった。メッセージアプリのシェアをイギリスやフランスを含めたヨーロッパ全体で掌握し、勢いそのままに日本へ輸入してLINEを打倒しようと、Viberに目をつけたところまでは良かった。しかし、その後がよろしくなかった。
Viberはイスラエル発の会社で、開発拠点はベラルーシのミンスクにある。買収後にミンスクのオフィスを2度ほど訪問したことがあるが、現地社員は「自由にやらせてもらっていてうれしい」と言っていた。自由にやらせているというと聞こえはいいが、要は放置で、これでは宝の持ち腐れだ。とくにViberはLINEのような通話機能を持っているので、早期に日本へ持ち込めば後発のモバイル事業者として楽天が投資に喘ぐこともなかった。
三木谷会長兼社長は、これから伸びるものを見つけるところまでは優秀。しかし、ダイヤの原石を見つけても、磨こうとしないきらいがあるのだ。
すぐに結果が出ないと投げ出してしまう
楽天グループの海外展開にも、その傾向がよくあらわれている。楽天グループは、社内公用語を英語にすると発表した10年くらい前から、海外展開を加速させた。当初は世界各国・地域でのビジネス展開を意気込んでおり、有望なマーケットを目ざとく見つけ出して事業を始めた。しかし、すぐに結果が出ないと投げ出してしまう三木谷会長兼社長の短期思考がゆえに、いずれの海外事業も尻すぼみになっている。
10年に中国大手IT企業のバイドゥと手を組んで開設した中国版楽天市場「楽酷天」は、2年後の12年に閉鎖。08年にはECの欧州市場でアマゾンに対抗すべく、欧州拠点としてルクセンブルクに楽天ヨーロッパを置いた。しかし、16年を境に欧州各国からの撤退と縮小が相次ぎ、現在ではフランスでわずかにEC事業を展開しているのみだ。楽天グループの現地法人で今も頑張っているのは台湾くらいで、あとはもう積極的な海外投資をしていない。海外事業の勢いは、最初だけだった。
たとえリーダーが偏ったタイプでも、その下の人たちの足腰が強ければ、事業を回していける。しかし、楽天グループは社員たちも三木谷会長兼社長に似たタイプの寄せ集めで、チームとして結束できておらず、機能不全だ。
日用品や弁当などの宅配システムを九州で展開している、エブリデイ・ドット・コムという会社がある。私が同社のオーナーをしていた十数年前、楽天から業務提携の打診があり、流通や販売など3つの組織の長が来社して打ち合わせをすることになった。朝9時に私がオフィスで出迎えると、3人はその場でお互いに名刺交換を始めた。同じグループでも交流がないのだ。
さらに驚いたのはその後だ。打ち合わせはそれなりに盛り上がり、3人は意気軒昂として帰っていった。しかしその後、連絡はなかった。実務をフォローする人が誰もいないし、もともと起案した人は既に辞めてしまっていた。
別件で楽天グループ本社に行ったときも、興味深い体験をした。打ち合わせをしていると、突然モニターに三木谷会長兼社長が映り、「今週の進捗は」と英語で語り始めた。社員は最初の1~2分こそ聞いていたが、そのうち自分の仕事に戻り始めた。英語ではわからない、という人を置きざりにしており、トップとしては求心力が低すぎる。
楽天グループには、創業期から三木谷会長兼社長と苦楽を共にしてきた社員がほとんど残っていない。幹部は高い給料で引っ張ってきた高スペック人材が中心だ。彼らは、嫌なら別の会社に転職すればいいと考えていて忠誠心が低い。三木谷会長兼社長に負けず劣らず短期志向なので、足腰も頼りない。
楽天グループは、いわば細い鉛筆を立てて束ねたような組織だ。三木谷会長兼社長が関心を持って見ているうちはまとまって立っているが、手を放すとバラバラと倒れる。これでは事業を太く長く育てていくことは難しい。
楽天存続の唯一の術はモバイル事業との決別
モバイル事業での躓きも、グループ全体としての足腰の弱さが原因だ。「楽天であれば、NTTドコモなど大手キャリア3社が寡占している国内携帯市場に風穴を開けられる」。三木谷会長兼社長やそのまわりは、そんな思いでモバイル事業を始めたに違いない。
しかし、これこそ現実が見えていない、頭でっかちな人の考えだ。
まず、ユーザーは既存の通信会社におおむね満足している。世界の多くの国は1~2社の寡占で、生き残れるのはせいぜい3位まで。4位以降が単独で浮上したケースはまずない。日本は既に3社が存在し、4社目は誰も求めていなかった。
もう1つはカバレッジの問題だ。楽天モバイルは人口カバー率99%とアピールしている。ただ、ユーザーが気にしているのは地理的なカバー率である。たとえば旅行中に災害に遭い、助けを呼ぼうとしたときに、つながらない通信会社とは誰も好んで契約しない。本来なら基地局を地味に増やすべきだ。しかし、もともと地理的カバー率を軽視していたし、いざその重要性に気づいても、足腰が弱いために基地局の整備が遅々として進まない。
では、楽天グループは今後どうするべきなのか。私が社長なら、楽天モバイルを今すぐあきらめる。厳しいが、それくらい思い切った手を打たないと、会社は存続できない。
楽天グループは、23年7月に楽天証券ホールディングスの上場申請に踏み切ったが、上場で資金調達できるのはせいぜい2000億円程度。年間5000億円の赤字を垂れ流すモバイル事業の穴埋めにならず、焼け石に水だ。
既存の社債は組み直しで急場を凌ぐと思うが、償還までの道のりは険しい。まずは三木谷会長兼社長が頭でっかちの経営をやめて、モバイル事業に見切りをつけない限り、楽天グループに明るい未来はないだろう。
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