トランプの大博奕

2024年に、文藝春秋PLUSで辻田真佐憲さんが語った:

 ”戦前日本の失敗”として、外交的な孤立、軍部の暴走、精神主義、抑圧的な体制、ポピュリズム の五つを上げる。これって、トランプそのものだ。かつての日本が「何故負けると分かっている対米戦争を始めたのか?」を語って、実は今のアメリカの失敗の可能性を語っている。

①外交的な孤立:アメリカファースト、ドンロー主義

②軍部の暴走…大統領が軍部を暴走させ、国際法違反をさせている

③精神主義…聖書を信じる(フリをする)。反知性。

④抑圧的…ICEは個人情報をAIで集め分析して「(潜在的な)犯罪者」を捕まえる…当然、これはICE以外にも応用可能…中国並みの国民監視に憧れるピーターティールのアイデアだ。

⑤ポピュリズム…「生活苦しい・金よこせ」の声に即応するため、民主主義手続きを無視する

以上からは、アメリカがトランプを大統領にしたのは失敗だ、となる。

一方で、最後に辻田さんは、日本のエリートは(東条英機が典型的だが)、「ゲームのルールを守ることを前提にする」ことから逃れられないと言う。確かに、ゲームのルールをひっくり返すという発想があれば、憲法なんて無視して天皇制を否定することもできただろうし、陸海軍大臣が軍人の立場を離れ、「今、対米戦争すれば負けます」と言うこともあっただろう。

この点、トランプは民主主義その他、既存のルールにこだわらず、ひっくり返そうとしている。つまり、トランプは負けると分かってるケンカからは、節操もこだわりもなく降りることができるということだ…昨日まで鬼畜米英的なことを言っていても、今日になったら平和を訴える…トランプならできる。

さて、トランプは成功するのか失敗するのか???トランプは負けると分かっているケンカ・博奕はしない。問題は、そのケンカ・博奕の勝ち負けについて偏りのない事前情報がトランプに上がるかどうかだ。トランプは事前に正しい判断をする能力は乏しいように思うが、勝負勘は優れていると思う。勝負が始まった後、「負ける」と分ったらすぐ手を引くように思う…イラン戦争も事前予想とは違う展開になってるが、勝負のアヤを読んで発言を変えながら、メンツを保ちつつイランから撤収しようとしているように見える。

トランプが大統領に選ばれた、という事実は、アメリカという国が民主主義を始めとする様々なルールをひっくり返そうとしている、と、とらえるべきではないか?そうなると、大統領三選もあり、なんてことになる可能性も。ギリシア以来、民主主義は独裁になる、と言うのが定説だが、その定説もひっくり返るかも知れない。そしてひっくり返すツールはAIだ、と考えられているのだろう。

アメリカがトランプに託した大博奕はどういう結果になるのか?民主主義が独裁になるか?それとも独裁以外の何かになるか?それを見届ける前に死ぬのは惜しい気がする。

閑話休題:

辻田さんは、大日本帝国憲法は、明治維新の経験者(元老)が陰で話し合って本音で調整するという事を前提にしていた、それが1920年代、元老が死に絶え、陰で元老たちがやっていた調整が1930年代に行われなくなったが、憲法では天皇がトップで官僚は個別に天皇を輔弼するとだけ決められていたから、官僚同士で調整しようとしなかった。これが行われていれば対米戦争なんて始まらなかった、と言う。これに加えて、俺は、①1920年代は、軍人が不人気になって優秀な人材が供給されなくなった…1920年代に軍人になった”出来の悪い”軍人が1930年代に将校になったが、そんな彼らにやめられては困ると迎合し、日本をアメリカに勝てる国に改造するために下剋上やテロを奨励する幹部が存在した②元老たちは天皇を祭り上げたのは自分たちだ、と考えていたから、天皇と対等に本音トークができた。元老亡き後の政治家・軍人と天皇との間に壁ができ、天皇は、絶対的な存在、忖度して仕えるべき君主となった。

つまり、軍では上司部下が互いに利用・牽制し合う関係になり、天皇と臣下の間のコミュニケーションは憲法に縛られた形式的なものになってしまった。

合理的に考えれば負けると分かっている戦争に「勝てる」と言い張るために、陸海軍は若手将校のテロを利用して反対論を押さえ込み、戦争に必要な資源を求めて天皇の意志・考えとは違う方向に「暴走」をし、片や天皇側も臣下の意見やアイデアを否定することを遠慮し追認した。

「政治家は政争に明け暮れ、官僚は苦しむ庶民を助けようとしない。天皇もそれを見て見ぬふり」という若手将校の声は純粋で、バズった。それがテロを正当化した。軍幹部にも、既存の天皇や政治家や官僚や議会政治や資本主義ではアメリカと戦って勝てる国にはならないから、自分たちのアイデアで国を改造しようと考える者がいた。

これを恐れた既存の天皇やその取り巻きは、軍の国家改造論を抑え、且つ天皇に逆らうこともなさそうな東条英機を首相にした。この首相人事で日本の敗戦は決定的になった。まじめな陸軍官僚である東条は片や軍人としてアメリカに勝てる国を目指し、片やアメリアに勝つために必要な国家改造を望まない天皇に仕えた・・・結果、国家改造できずにアメリカに勝てる力をつけられなかった日本が、国民や軍若手の声に負け、アメリカの挑発に乗らざるを得なくなって戦争を始めた。

結局、日本は「アメリカに負ける」と言えずに「鬼畜米英を撃て」という声に負けたと言える。政府と国民、政府と天皇、軍部の幹部と若手…一口で言えばミス・コミュニケーションが原因だ。

石原莞爾は東条英機を馬鹿にしたが、じゃあ、彼が首相になってたら何ができたか?結果は大して変わらなかったんじゃあないか?彼にも憲法を変えるまでの発想はなかったんじゃあないか?はやる若い軍人や国民に「あと何十年か待て、その間にアメリカに勝てる国にしよう」と言って通じただろうか?

辻田さんは、日本人を「憲法一つ変えられない」と揶揄・卑下してるかのようだ。

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