私たちはデジタル空間の「農奴」

年に何回か、朝日にもいい記事が出る。これはその一つだ。


ギリシャ人なんて勤勉でないし屁理屈ばかりが得意という印象だが、人間は”プラットフォーマー”とか"ビッグテック”などと呼ばれる会社の農奴だ、という指摘は面白い。

私たちはデジタル空間の「農奴」 怒りが増長させる米中クラウド帝国

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吉岡桂子

 ――どう変わったのですか。

 デジタル取引のプラットフォームが市場にとって代わり、それやクラウド(インターネット上のデータ保管場所)を利用するためには使用料や手数料を支払わなければなりません。封建制の時代の地代や小作料のようです。その結果、力を持つのは機械や鉄道など伝統的な資本の所有者ではなく、デジタル取引のプラットフォームやクラウドを所有し、運営するGAFAMらになりました。彼らがデジタル空間の「領主」で、たとえばアマゾンを通じて自社の商品を販売する企業は「家臣」のような存在です。私たちユーザーは、デジタル空間に縛り付けられて自分の時間と個人情報をせっせと貢ぐ「農奴」と言えるでしょう。生産的な機械や金融が利益を生み、経済を動かしていた資本主義の時代は去った。スマートフォンは電話機としてではなく、インターネットにつながることこそが本質です。グーグルやアップルから切断されれば無力な箱です。

 「テクノ封建制」では、ステーブルコインも構成要素となります。

 ――ドルのような法定通貨に連動し、比較的安定しているとされる仮想通貨ですね。

 日本国内で米国のテック企業が発行する仮想通貨が広がれば、円をつかさどる中央銀行・日本銀行は国内のお金の流通をコントロールできなくなるおそれがある。国家の通貨主権を米企業に奪われてしまう。通貨においても、「テクノ封建制」は国家の権力を弱体化させる力を持っている。

 ――日本も欧州も領主にあたる自前のビッグテックを持っていません。デジタル化を進めれば進めるほど、関連する富は米国へと流出します。

 たとえば、電気自動車(EV)の中核技術はAIであり、通信システムです。IT企業と親和性が極めて高い。テスラを擁するイーロン・マスク氏がX(旧ツイッター)を買収した狙いも、双方の技術の相乗効果を考えてのことではないでしょうか。これは、いくら良い車を生産できたとしても日独のメーカーにはできない。ただ、米国以外で唯一、独自のクラウド資本を確立できた国があります。

 ――中国、ですね。

 グーグル、フェイスブック、Xなどをブロックし、独自のシステムを構築し、管理している。国内の巨大テック企業アリババは一時期勢いに任せて当局の管理を超えようとして抑え込まれた。私の観察では、今日の権力はクラウド資本を所有する者たちの手に握られている。その領主は米国と中国にしかおらず、世界には米中という二つのクラウド帝国が存在しています。この意味において、日本や欧州は「植民地」になりかねない。帝国を動かせる「王」がいるとすれば、トランプ大統領と習近平(シーチンピン)国家主席です。

 トランプ氏は第1次政権(17年~)時にファーウェイやZTEという中国のテック企業を米国や日欧など先進国市場から排除しようとした。バイデン政権も中国との競争をにらんでCHIPS法を制定し、半導体など戦略産業に巨額の投資をつぎこんだ。戻ってきたトランプ氏は、「妥協点をみつけよう」と「G2体制」を呼びかけている。彼は自らが西半球と日本、豪州などを支配できれば、中国が独自の地域、つまりグローバルサウスや周辺諸国を抱えることを気にしないかのようです。二つのクラウド帝国で地球を分割し、「おまえはこれをくれ、おれはあれをやる」といった類いの取引をしようとしているのではないか。人類にとって良い未来とは思えませんが。

 ――「農奴」であるユーザーによるエンゲージメント(SNS投稿や閲覧などの関与)で、デジタル空間の言説は各国で選挙の動向を左右するほど世論の形成にも力を持つようになっています。

 ただ、「領主」にイデオロギーはない。デジタルプラットフォームに埋め込まれているのはアルゴリズム、つまりビジネスプランなのです。「クラウド資本」が力を生み出す方法は、ユーザーとの関係を通じてです。非常に単純な理念の設計で、最大のポイントはユーザーとの関わりをできるだけ長く継続させることです。

 ――ユーザーをデジタル空間に長く滞在させるほど個人情報が収集でき、プラットフォームはビジネスの種にできますね。

 その目的を達成する最も効果的なユーザーとの関わり方は「怒り」です。あなたを怒らせ、憎悪や恐怖を感じさせて、スマホから離さない。攻撃されれば、自分と似た人々を探してともに仕返ししたくなるでしょう。怒りは増幅され、あなたはますますスマホから離れられなくなる。プラットフォームはあなたの怒りから利益を得ているのです。デジタル空間は結果として、攻撃的な場所になり、怒りが世論を作る「公共議論の毒化」が世界中で起きています。

デジタル「市民」になるために

 ――SNSによる誹謗中傷や偽情報、政治的な分断といった傾向は世界的な問題となっています。デジタル空間の規制の議論も続いています。何かできることはあるのでしょうか。

 各国の政府の選択肢としては、インターネットを通じた買い物や投資に大幅に課税することです。また、SNSなどソーシャルメディアのプラットフォーム間でユーザーやコンテンツを連携・共有する相互運用を徹底するように規制することです。たとえば、私がXから離れて別のプラットフォームに移りたくても100万人以上のフォロワーを失いたくないと思えばなかなかできない。でも、相互運用を実施すれば、移った先の投稿をXのフォロワーも受け取れる。各国・地域が独自の公共プラットフォームを作り、相互運用すれば、ビッグテックの力は相対的に落ちるでしょう。

  ただ、各国の政府に権限があっても、トランプ氏は許さないでしょうね。テクノ封建制の「領主」は、米国企業なのですから。

 ――現在のプラットフォームは便利でお金を払っている負担感が薄いので、「農奴」で良いと考えるユーザーも少なくないかもしれません。

 私が一番大事だと考えていることは所有権の問題です。想像してみてほしい。アマゾンやウーバー、TikTokなどを、1ユーザーが1株、1票を所有する姿を。つまりソーシャルメディアを共同所有し、アルゴリズムの仕組みを民主的に決める状況をつくる。プラットフォームの運営方針はユーザーが決める。エンゲージメントの最大化を狙うアルゴリズムを変えれば、ソーシャルメディアの空間から怒りや憎しみが消え、「毒化」もやむでしょう。ひとりひとりが参加して議論すればデジタル農奴からデジタル市民へと変貌(へんぼう)できるはずです。

 誰が技術を所有しているか。これは本質的な問いなのです。

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マルクスは、資本家に搾取された労働者が革命を起こし、労働者独裁を行う、と予言した。その予言は、はずれたようだ。バルファキス氏は、すでに資本家は力を失い、人々を支配し搾取しているのはビッグテックだ、という。

かつては土地を独占していた支配者が土地の使用料を取っていた。それが資本主義になって、資本を独占した者が労働者を搾取して利益をあげるようになった。それが、今はプラットフォーマーがほとんどの人間から薄くデジタル空間の使用料を取って世界を支配していると。

トランプは中国と世界を分割統治しようとしている、という説も面白い。しかし、中国が独自のデジタルプラットフォームを作り上げたのは立派、の一言。逆に言えば、それを許したのはアメリカの失策だ。

プラットフォーマーが怒り・恐怖・憎悪によってその支配力を維持・強化しているというのも卓見と言える。

SNSをプラットフォーマーではなく、市民の所有とし、民主化する、という「革命」のアイデアも面白いが、マルクスの革命理論みたいに、「放っておいてもそうなる」という”弁証法”がないから魅力的でない。デジタルプラットフォームに埋め込まれているのはアルゴリズム、つまりビジネスプラン・・・プラットフォーマーは人々を支配・搾取と気づかれずに巧妙に支配・搾取することしか考えない・・・これがプラットフォーマーの自己矛盾・自己否定を導くような気もするが…?

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