5・15や2・26事件にみられる「人柱」思想

山本七平「現代の超克」(1977年)四 世相五十話  より

(5・15や2・26事件を起こした若手将校は)現体制をひっくり返して自分も死ねばよい、それは地ならしをして自らは人柱になる事、そう自己否定すればその上に揺るぎない新秩序が自然発生的にできる、そう信ずるがゆえに、その秩序の具体的構想は考えてならず、ましてそれへの参加など考えるのは不純で、それでは成功しないと彼らは信じた。

>>井上日召の一人一殺思想に影響された5・15事件は七平さんの言う通り新秩序の邪魔となる者を排除するテロであり、その先、誰がどうするなんてことは考えていなかった。2・26に影響を与えた北一輝の「日本改造法案」は、新秩序について語るばかりで、誰がどう新秩序を打ち立て、政策実行するのかを語っていない。2・26首謀者たちにも、彼ら自身が新秩序に関わるなどということは考えていなかったろう。「人柱」「捨て石」となって旧秩序を破壊する、それ以上のことは考えていなかったろう。

一方彼らが再現を目指した明治維新に参加した者どもは新秩序・新政府の主役となった。昭和維新を目指す者どもから見れば、西郷だけは新政府から「一抜け」し自死し、人柱と考えられたか尊敬・憧憬の的だったが、生き残って明治の新秩序にかかわった大久保、伊藤以下はクズだった。
旧秩序をひっくり返す人は死んで人柱となって新秩序の担い手になってはならない・・・大東亜戦争遂行体制はアメリカとアメリカに降伏しようと決めた天皇によってひっくり返り、その7年後アメリカはいなくなる。天皇は神でなくなって居残る。(アメリカも現人神の天皇も日本の戦後民主主義から見れば、ある意味「捨て石」だ)戦後民主主義は大東亜戦争遂行体制をつぶした神としての天皇以外の人たちがいずれ日本を去ることが分かっているアメリカに指導されて進められた。例外は戦時内閣の大臣で東条英機の退陣に一役買った岸信介か?”世界の常識”から見れば戦時内閣の大臣=戦犯だ。一方、「人柱論」から言えば、岸は東条英と刺し違えて死ぬべきだった。これが「東条退陣に一役買ったんだから戦犯ではない」となり、「東条退任後1年間戦争は続けられ、東条退任は必ずしも大東亜戦争遂行体制をつぶしたことにはならない」と見れば岸は人柱となるには当たらない。

閑話休題:
神だった天皇と戦時内閣で大臣だった岸・・・旧体制の主役でもあり、また、旧体制転覆の主役でもあった。体制の外にいて体制転覆をしようとしても失敗する。旧体制の中心人物が自己否定することによって旧体制が転覆し、その功績により、自己否定した人は人柱にならずに生き残って新体制でも中心となる。

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