北太平洋の日米ソのせめぎ合い

アリューシャン列島とは、西はカムチャッカ半島の南から東はアラスカに続く島々で、ここに飛行場が建設されれば、アメリカ本土（なかんずくB29を作るボーイング社の工場があるシアトル）も、日本本土も空爆することも可能だった。

千島列島は日本が北方領土と呼んでいる4島からカムチャッカ半島までの島々で、ソ連から見ると、ここを他国に取られると、軍艦がオホーツク海から太平洋に出ていくことができなかった。

1942年6月、日本陸軍はアリューシャン列島のアッツ島とその南東にあるキスカ島を占領した。（両島ともアメリカは守備隊を配備していなかった。アメリカ本土が占領されたのは1814年、米英戦争で英軍に東海岸メリーランド州を占領されて以来のことだった）

日本軍は飛行場を作ったが、アメリカへの空爆はしなかった。1943年5月、両島はアメリカに奪還され、アメリカはアッツ島から日本本土への空爆を行ったとされるが、日本本土への空爆はもっぱら南太平洋からのものが被害も大きく、有名である。

1943年はスターリングラードでドイツ軍第6軍が降伏し、日本はガダルカナル島から撤退、山本五十六が戦死し、学徒出陣が始まった…日独の敗色が見えてきた年だ。

千島列島は1855年、日露和親条約によっていわゆる北方4島は日本領、それより北はロシア領となった。その後樺太千島交換条約により、千島全島が日本領となる。

1944年6月のノルマンディー上陸以降米英軍はドイツ軍を追い詰め、1945年1月、ソ連はポーランドからドイツ軍を一掃した。ドイツに戦勝する目途がついた連合国は1945年2月、ヤルタでアメリカ・ルーズベルト、イギリス・チャーチル、ソ連・スターリンが戦後処理について談合し、日本に関しては、

①ドイツ降伏90日後のソ連対日参戦

②それを条件に南樺太、千島全島のソ連領有　が決められた。

ソ連は日ソ不可侵条約を一方的に破って北方領土を取った、とか火事場泥棒のように満州で略奪行為をしたなどと言われるが日ソ不可侵条約の破棄はスターリンの一存で決められたわけではない。むしろ、チャーチルから頼まれればホイホイとドイツと西に出向いて戦い、ルーズベルトから頼まれればホイホイと東に出向いて日本と戦う、スターリンの人の好さを感じる。また、満州では日本人に対して略奪し、あらゆる物資・設備をソ連に持ち去ったが、これは、満州はソ連領にならないからで、ソ連領となることが分かっていた樺太や千島ではそれほどの略奪はなかった、とも言われる。

60万人と言われるシベリア抑留も、金銭による賠償がないから、ソ連は日本人のみならずドイツ人に対しても同じように奴隷的な労働をさせたらしい。

しかしアングロサクソンは嫌だね。お人好しのロシア人をドイツと戦わせ、それが終わったら休まず日本と戦わせる。

アメリカは日独と戦うソ連に対し、レンドリースと呼ばれる武器供与を行う。これによって海軍の弱かったソ連は海軍を強化できた、その強化された海軍に千島列島を攻められることは、日本軍の想定外だった。しかし、ソ連が北海道まで欲しがったことから米ソ協調関係は壊れる。スターリンが北海道をあきらめたのは、朝鮮半島の北半分がソ連の影響下になることが分かったから、とされる。

日本は米ともソ連とも裏で談合できなかった。これはもしかすると人種的な偏見もあるかもしれないが、ソ連が日本でなく米国と組んだのは、究極のところ、アメリカの持つ総合的な国力の豊かさゆえではなかろうか？

シビリアンコントロール、そして何年かに1回行われる政権交代…軍隊による独裁に比べれば効率の悪い仕組みだが、そんな非効率な仕組みでも他国に国力で勝つという余裕と豊かさがアメリカにはあった。（近年だんだん余裕がなくなってきたように思われるが）…例えば、日本が南太平洋でアメリカと戦う傍らで、ドイツと戦うソ連を東から攻撃する、なんて不可能だ。アメリカには南太平洋で日本と戦い、同時にヨーロッパでドイツと戦う余裕があった。これを見せつけられればソ連もアメリカになびく。

様々な歴史に皮肉が…今、アメリカはロシアと戦うウクライナにレンドリースする。

関東軍は棄民した、とか一般人を見殺しにした、と言われる。もっとも、1945年当時の日本軍は南方の対米戦争で精いっぱいで、心理的にも軍事的にも「ソ連が攻めて来る」ことに対する備えはできなかった。しかし、だからと言って国民皆兵などと言って一般人を戦わせようとして軍人とその家族だけ逃げた結果、一般人をいけにえのようにソ連軍に差し出すことになったのはまずかった。これを見ると、本土決戦はやらなくてよかったか？まずやられたのは、戦うことを強制され、前線に無理矢理押し出された弱い一般人だったかもしれない。生き残った一般人から言わせれば、「関東軍はあんなに威張っていたのに、いざとなったら逃げて一般人を見殺しにした」となるのは無理もない。

以上、2023年勉誠社刊　「日ソ戦争史の研究」を読んで

閑話休題：

1943年の出来事をWikiっていたら、7月1日に東京府と東京市が統合されて東京都になったんだそう。マッカーサーはどうしてこれをそのまま残したんだろうか。