エマニュエル・トッド「自由貿易は、民主主義を滅ぼす」

 エマニュエル・トッド「自由貿易は、民主主義を滅ぼす」 2010年、藤原書店 より:

オバマが大統領になった背景:

トッドさんによると、アメリカはインディアンや黒人を差別した。その代りヨーロッパからの移民は一括りに白人とし、白人だけを人間扱いして白人だけの民主主義を行った。この頃は、白人には差別・格差がないというフィクションが成り立った。これが、教育格差、グローバリズム・自由貿易進展の結果、白人のブルーカラーが貧しくなり、白人層が富裕層と貧困層に分かれ、白人間の平等が崩れた。白人の”被差別人種”が現れたことによって黒人やインディアンやヒスパニック、黄色人種といった旧来の被差別人種への差別意識が弱まり、黒人が大統領になることに対するハードルが低くなった。

≪グローバリゼーションやらダイバーシティー、社会保障など民主党的なきれいごとを並べるオバマでは暮らしがよくならなかった白人貧困層は自由貿易を否定するトランプ支持に回り、トランプ信者になった。

黒人のオバマが大統領に選ばれたということは、アメリカの(白人だけの)民主主義が潰れたということである。伝統的・正統な白人だけの民主主義を守ろうとすれば、被差別人種の黒人に投票させないか、または、普通選挙をやめるしかない、というのがトッドさんの見立て。

実際、トランプは再選を目指した選挙で黒人に投票をさせまいとし、それでも負けたら、「この選挙はインチキだ(盗まれた)」と言って選挙を否定しようとした。白人貧困層には、Greatとは白人だけの民主主義復活のこと。また、人種差別反対などと理想・きれいごとを並べるけれど一向に差別が止まない民主党の政策に愛想をつかした黒人もトランプ支持に回る。≫

トッドさんと対談した佐伯啓思の発言:

ニヒリズムの最先端を走っているのがアメリカです。アメリカの重要な価値観は、リベラルデモクラシーと科学主義の二つですが、どちらも価値というものの意味を問わない。アメリカのリベラリズムの大きな特徴は、どのように生きるか、何が大切かと考えるかについては一切問わない。それは個人の趣味の領域に割り当て、個人の権利だけを保証する。こういう非常に形式的な議論をアメリカのリベラリズムはしています。そしてそうしたリベラリズムが、アメリカを支配し、日本にも浸透している。

科学主義も同様です。市場競争は、効率を達成すると言うけれども、それが望ましい事なのか、我々の生活にとって必要なのかという議論はしない。科学と言うものは基本的に価値を排除する。しかしその代わりに科学主義そのものを、つまり科学が絶対であるということだけは価値にしてしまう。リベラリズムは価値を排除するけれども、リベラリズムは絶対である、というのと同じです。いわば、一種の自己神格化によって、疑似的な価値を打ち立てている。

≪ニヒリズムとは価値観の多様化を認め、価値観の異なる人を否定はしないが、それを「自己責任」として突き放すこと。”科学的”とは、自分の守備範囲を定めてそれを超えたところで起こる事には手も口も出さないこと。世界の成り立ちや人間の存在理由といった普遍的な原理・ロゴスの探求、言い換えれば宗教がない事。≫

アメリカ人の”自由”とは、敵を想定してその敵と戦って勝つことを目指す事。自由貿易とは競争力のある国・企業が勝つこと。保護貿易とは敵をやっつけるのではなく、自国の味方を救う事。

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