”福島第一原発事故の「真実」”を読む

 NHKメルトダウン取材班による講談社・2021年刊、”福島第一原発事故の「真実」”を読む。素晴らしい構成だ。技術的なことも網羅し、図面や写真も使い、そして何より現場の運転員たちの心意気を描く。単純に時系列に沿って事実を並べるのではなく、必要に応じ、参考になる情報・事象・心理描写などを折り混ぜる。

老いも若きも全員が(厳密に全員かどうか分からないが)我身を投げ捨てて放射線量の多い現場作業に出て行こうとする。これは何だろうか?日本のためか?福島のためか?町のためか?東電のためか?家族のためか?そうじゃあないような気がする。強いて言えば菅首相に代表される、政府や本社にいる偉いさんに対する現場・運転員の意地か?また、「俺一人だけ逃げるわけにもいかない」という気持ちもあったか。「○○のため」という事を忘れてしまう日本人の特徴がよく表れていると、思う。素晴らしい日本人論になっている。

電源を喪失し、計器が作動せず(あるいは信用できず)真っ暗な中で車を運転するようなものだったと思うが、理屈や言葉ではなく、運転員たちの意地、気持ちが頼り・最後の砦になった。様々な「文明の利器」を日本人は取り入れてきた。通常時は理論が勝つが、非常時になると意地、気持ちが勝る。俺はゼロ戦に乗る特攻隊員のことを思った。自分の命・死は将来の日本のため・・・と言葉にすればそうなるが。。。

事故後、交代して社長になった廣瀬が運転員を選んで表彰しようとしたら、進んで危険な現場に向かった若手社員が「みんなが平等に表彰されないなら自分は辞退する」と言い出した、というのも日本人らしい。廣瀬は反対意見もある中、表彰を強行し、表彰式の挨拶の途中で泣いた。その涙は、部下に危険な現場に行けと命じた班長の負い目を少し軽くしたとも。

俺も製造会社にいたから、現場のことは少しは分かる。運転管理や、設備の設計・メンテが悪くても、運転員が何とかカバーしてくれる、という感じはあった。例え経営者が馬鹿で、日本で作ったんではコスト競争力のない製品を作れ、と言われれば爪の先に火を灯すようにして少しでも安くして作った。大馬鹿野郎だが、今思えば日本人らしくて美しかった・・・理屈では、コストで敵わない製品を作るなんてバカバカしくてやってらんねぇんだが・・・特攻隊とおんなじだ。



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