いしい・てるみ(朝日新聞デジタル)
異色の経歴を持つお笑い芸人。いしい・てるみの記事以下。
東大に入って大学院に進み、外資系コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社しました。絵に描いたようなエリートコースと言われます。
でも、1年4カ月で辞めました。つねに成果を求められるプレッシャーに、心身が悲鳴をあげたのです。「一度の人生、本当にやりたかったことに挑戦しよう」と、お笑い芸人に転身し、今に至ります。
マッキンゼーでは、色々な形の評価を受けました。理想的な成長速度の通りか、それより速いか遅いかといった査定を受ける定期評価だけでなく、プロジェクトごとの評価や、毎日の仕事ぶりをフィードバックされる形の評価もありました。
評価自体がおかしいとか理不尽だとか思ったことはありませんでした。低評価を受けた時も、思うように仕事ができていないということは、自分が誰よりもよく分かっていました。それを正直に示されているだけなので、納得はできます。
苦手だったのは、仕事がうまくいかない間も、いつも評価にさらされているというプレッシャー。萎縮してパフォーマンスが落ち、さらに萎縮して……と、負のスパイラルに陥る。生き生きと仕事ができていない自分の姿が嫌でした。
「ハイパフォーマー」と呼ばれる優秀な先輩に聞いたことがあります。「なんで、そんなに仕事ができるんですか?」と。「ここ(マッキンゼー)だけじゃないと思ってるから、オレ」という一言が忘れられません。世界は広い、ここの評価だけを気に病むな、と言っているようでした。
評価には属人的な要素、上司との相性、仕事の巡り合わせもあります。「そんなもんだ」という割り切りや、今いる場所を俯瞰(ふかん)することができるかどうか。
お笑いの世界も、お客さんによるシビアな評価にさらされます。駆け出しのころ、芸人の養成所でお客さんを入れたライブがありました。アンケートの中に1枚、私のネタについて「無理」と書いてあるものがありました。当時、自分のやりたいことを全然形にできていなかったので仕方ありません。しかし、チームに迷惑をかけるわけでもなく、次に挽回(ばんかい)すればいいと思えるので、まだ気が楽です。
すべることにもいちいち落ち込まなくなりました。ウケなかった芸人の口から「今日のお客さんはダメだね。何しに来たんだよ」という愚痴を聞くこともあります。そのような図太いリカバリーも、時にはありだと思います。(聞き手・宮崎陽介)
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いしい・てるみ 1983年生まれ。ワタナベエンターテインメント所属。英語フリップネタなどをする。著書に「キャリアを手放す勇気」。
《日本人には個人の評価はなじまない。個人の成果を積み上げると全体の成果になる、というわけじゃないから。日本人は「ここだけ」と思えて「ここ」にとどまり続けることが出来れば一番ハッピー。評価・出来の悪い人を助けたりする。個人主義じゃないんだもん。個人評価を徹底的かつ完璧にやろうとすればマッキンゼーのような息詰まるような評価システムが必要だ。だが、日本人には不向き。日本人に限らず「ここだけじゃない」と思ってないとやってられない。だから「俺はもっと評価されるべき」と思えば転職する…この転職なら理解できる。
俺も評価する側に回ったことがある。見てると「俺はこんなにすごいことやったから高く評価しろ」というヤツと「私は大したことしてません」というヤツとの極端が生じた。面倒くさくなった俺は「みんな同じ成果を上げた」と全員を同じ評価にした。俺は部下の一人一人が何をしたのかなんて全く興味がなかった。「これからの会社を支える者」「変革できる者」を探し、育てる事だけにしか興味はなかった。》
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