神谷美恵子 著 「生きがいについて」 (別名“自己忠”の勧め)その5

 生きがいを求める心②:「未来性への欲求」は全文を以下。

変化と発展への欲求は、当然未来性への欲求をはらんでいる。これからの生が新しい発展をもたらすであろうと期待するからこそ、生きがいは感じられる。前途は未知のほうがよく、道は先まで続いていると感じられなくてはならない。どんなに広い、立派な道でも先は袋小路と知れば、とたんに足はすくんでしまう。

未来がひろびろとひらけ、前途に希望の光が明るく輝いているとき、その先に目を吸いつけられて歩く人は、過去にどのようなことがあったにしても、現在がどんなに苦しいものであっても、「すべてはこれからだ」という期待と意気込みで心に“はり”をもって生きていくことができる。現在の幸福と未来の希望と、どちらが人間の生きがいにとって大切かと言えば、言うまでもなく希望の方であろう。それゆえに高給でも将来性のない仕事ならば、選ばない方がよいのである。将来性という観点から見れば、功なり名とげたというような状態は、かならずしもうらやむものではない。若い人の方が生きがい感を持ちやすい理由の一つは、彼らが過去と言う重い荷に制約されることなく、すべてを未来にかけて、わき目もふらずに何物かを創り出そうと力の限りをかたむけるからである。

この未来というものに、ひとはどのような内容を与えているのであろうか。近い未来における身近な生活目標を持つことは、ほとんど誰もがやることで、それがなければ、愛生園の人びとの一部にみられたような、深刻な生きがい喪失を生む。しかし人間には同時に、もっと遠い、大きな未来を夢みたい欲求がある。はっきりした終末観をもつ信仰の持ち主には、この確固たる未来展開がおどろくべき強さをもたらし、現在のあらゆる苦難に耐える力を与える。多くのひとは子孫とか民族国家とか文化社会、人類の進歩や発展に夢を託し、それらの大きな流れの中に、その一部として自己の未来性を感じ、それを支えに生きていく。人類滅亡の危険にさらされている現在では、そうした未来性への欲求がどれほどまでに、はばまれていることであろうか。そこに現代における生きがいの問題の大きな困難の一つがある。

・・・嘘でもいいから明るい未来を夢見させて欲しい、とも思う。「前途に希望の光が明るく輝いている」とあるが、このくだりは、手塚治虫先生の「火の鳥」の一場面を想起させる。地下から地上まで垂直に続く深い穴があり、底に男が一人いて、頭上に明るい光が見えるという場面だ。男はその垂直の穴の壁を、光を目指してよじ登っていく。前途に光が輝いているのが見えるだけで希望かどうかは分からない。訳も分からず意味もなく、ただ壁をよじ登る。階段も手すりもなく、精神的にも肉体的にも辛いが、よじ登り続ける。この場面に出会って、俺はこれが生きるってことだ、と気づいた。苦しいから、辛いから壁をよじ登るのを諦めて穴の底に落ちることが死だ。そんな格好悪い死に方は嫌だから、明るい光を目指してただ穴を登り続ける。それが生だ。現代日本にも希望や未来はない。アメリカにも希望や未来はないように思われる。アメリカ人はマニフェスト・デスティニーに従って、19世紀に西海岸までたどり着いてしまい、そこから先=未来が見えなくなった。もっと西にあるハワイやアジアや中東に手を出したがハワイと日本を手なずけた程度でベトナム、中国、中東ではどうもうまく行かない。西海岸にたどり着くまでに先住民族を騙し、殺戮したことも明らかになった。一時、最大のライバルだったソ連に勝ったが、世界はアメリカの意に沿わない。西に行けば希望があり、約束の地にたどり着く、と単純素朴に信じていたアメリカ人はどうしていいか分からない。無神論者も増えているのではないか?核兵器も物理的に未来をぶっ潰す力をもっている。これも全人類をニヒルにし絶望させる。俺は生きることに意味はないと思うし、生き続けたって明るい未来が待っているとは信じない。20世紀以降の「進歩」と呼ばれるものは俺にとっては「退歩」だ。その点、俺は反動的・反進歩主義で悲観的だ。地球や人類がいつまで存在し続けるのかも分からない。それでも生きる。不安で生きがいもないが生きる。へそ曲がりだから、不安で生きがいもないから死ぬなんて当たり前すぎて嫌なので生きる。「くそー。負けねえぞ」と生きる。俺は信じていないが、もしかしたら、生き続けたら、その先に何か明るい、いいものが見えるかも知れない。悲観しながら生きがいを探し、生きる意味を探すのが俺の人生。「火の鳥」で穴をよじ登った男はとうとう地上に出ることができた。しかし、それで男が幸せになったという結末ではなかったように記憶する。地上に出たら次の新しい苦難に満ちた旅が待っていた・・・ように思う。

 


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