津田左右吉を読む

津田左右吉「日本の皇室」(中公クラシックス)を読む。天皇には権利がないそうだ。あるのは徳と義務。頼まれもしないのにもっぱら平和や豊作やら民の幸福を祈る。それをひけらかすこともないし、民からの感謝や報恩(見返り)など、思いもしない。つまり、自然にそうなる、そうせざるを得ない。狙いや目的があるわけではない。ただ祈るだけ。そして権利義務責任が問われる政治にはかかわらない。臣(部下)にまかせて口出ししない…時に徳のない天皇が政治を主導しようとしたり、政治の実権を握る藤原家や武士に逆らおうとしたが碌な結果にはならなかった…徳があれば律令制は言うに及ばず摂関政治、武家政治だろうが、封建制だろうが、軍国主義だろうが、民主主義だろうがどんな政治にも天皇はフィットする。これが長続きしてきた理由…だそうだ。

民は天皇をまず、敬愛する。次に恩を感じ、親に対するのと同じように孝行しようとする。これも自然に、そうせざるを得ないからそうする…のだそうだ。

アングロサクソン流では神の意志に従った契約という枠組みの中に権利義務責任が組み込まれる。神の意志だから、嫌になったといって「無かったこと」にするには多くのコストと手間がかかる。俺は日本人には”権利”ってなじまないと思う。神様の意志とか義務や責任を絡めて考えるのって日本人には難しい。徳と孝行でいいのではないか?(「こうしてやったからああして欲しい。」「俺はこうするから君はああしなくては。」などという下品な平等とやらをやめる、ということ)民主主義ってやつも、日本人向きとは思わないし、アメリカ様にお教えいただいた民主主義なる代物=戦後民主主義はアングロサクソン流の”本場の民主主義”とはかなり違う物になり果てた。日本の個人とか自由とかもアングロサクソンとはだいぶ違う。個人や自由は脇に置いて、みんなの顔色や空気を読みながら話し合う、しっとりとした和の民主主義。悪くはないけど、そんなにいいもの、守るべきもの、とも思わない。

津田左右吉によれば、天皇という仕掛けが長続きしてきた理由は、結局「日本人がそうさせてきたから」だ。天皇は人間でもあり神でもあるのだが、他の神と違って先祖代々脈々と続く血統・家系が神だ、ということ。(=万世一系)つまり、一人の神様がポツンといるわけではなく、千年以上続くたくさんの先祖たちのつながりが神様だ、ということ。天皇家の先祖の中には人殺しや謀略で皇位を奪った者もいた、ということになっている。先祖に”犯罪者”がいても、天皇家は連綿と続いてきた。津田左右吉に言わせれば「長く続いてきたから長く続ける価値がある」んだそうだ…全然説明になっていない。(けれど正しい)

占領軍のマッカーサーあるいは本国にいたトルーマン大統領はどうして天皇の死刑(少なくとも退位)や天皇家廃絶を行わなかったのか?占領にかかるコストを考え、またソ連と分割統治することを回避し日本を100%アメリカが占領しようとしたら、天皇に手をつけず日本に騒乱を起こさない方がよい、という判断があったことは確か。それにしても天皇戦犯説が強かった国際世論をよく押し切ったものだ。天皇が降伏を決断しきわどいタイミングで戦争を終わらせたからか。(ポツダム宣言受諾の聖断のいきさつはアメリカ側に筒抜けになっていた)ソ連は日本もドイツのように半分占領しようと考えていただろう。スターリンと仲良しだったルーズベルトがポツダム宣言のあと死んだというのもきわどかったし、ソ連が北海道に上陸する前に原爆の”おかげ”で日本が降伏したというのもきわどいタイミングだった。(結局ソ連は条約を破って満州で日本人にひどいことをした、という悪い印象だけを背負わされ、アメリカは原爆を落としても日本で受け入れられた)ポツダム宣言受諾のご聖断は政治的にもきわどかった。そもそも天皇には政府の判断に意見を言うことはしないというのが建前で昭和天皇自身も厳しく自戒していた。いつまでも降伏しそうにない軍部を押し切って降伏に舵を切るために鈴木貫太郎首相があえて天皇に判断を仰ぐというルール違反をし、天皇も禁を犯して「降伏すべし」と意見を述べた。軍部に任せていては日本が滅ぶ、という危機感を鈴木首相と天皇が共有した、という結果になったが、これもきわどかった。

しかしこの決断の陰で沖縄や満州の日本人を棄民した。結果論だが、分割統治された韓国やドイツは立派に立ち直った。日本だって「最後の一人まで戦い抜くつもり」で本土決戦していたら、大変な目に合い、分割統治されてたけど立ちれたはずだ。沖縄の人たちを裏切ることもなかった。何より「腑抜け」「アメリカのポチ」にならなかった。本当にあのタイミングでポツダム宣言を受諾すべきだったのか?アメリカにとってはそれがよかったことは間違いないが、日本人にとってよかったのか?ロシアの言う「西側のプロパガンダ、フェイクニュース」を鵜吞みにしてないか?


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