ETV特集「玉砕」の島を生きて~テニアン島日本人移民の記録~を見て
この番組を見て初めて知ったのだが、サイパンの南西にテニアン島という島がある。戦前その島に、貧乏で食い詰めた日本の農民が移住してサトウキビを育て、砂糖を作っていた。1944年夏、その島は米軍に攻め落とされ、島民は日本兵と共に”玉砕”した。生き残った日本人にNHKの太田という女性ディレクターが10年以上かけて聞き取り取材して作ったのがこの番組。番組では様々なことが取り上げられたが、”玉砕”をやめて生き残った小檜山(こびやま)ミサさんの話が一番印象に残った。ミサさんの話以外で印象深かったのは番組冒頭、取材開始直後で率直・まっすぐ・無神経な質問をする太田ディレクターに向かって、あるおじいさんが「聞くだけ野暮だよ」と笑って答えなかったシーン。番組が進むにつれ、少しづつテニアン島の「地獄」が語られ、なぜ「聞くだけ野暮」なのか、つまり1944年テニアン島にいた日本人はどんな、思い出すのも口にするのも憚られるような体験をしたのかが分かるようになる…そのストーリー展開は非常にうまい。
1944年米軍が上陸してきたとき、ミサさんの夫はすでに死に、長女(藤子)、長男、次女、三女、乳飲み子の次男という家族構成だった。洞窟にこもって隠れていたが5歳の次女は水が欲しいといって洞窟から出ていき、そのまま帰ってこなかった…後に米軍に保護されていたことが判明。8月3日に日本軍(テニアン守備隊)は壊滅、敗残兵が島民(民間人)のところに逃げてきて一緒に玉砕(自決)するよう求めた。まず、聞き分けのない小さな子供から殺せ、と言い残し、兵士は率先して1個しかない手りゅう弾で自決。生き残った(死に損なった)民間人は”みんな”子殺しをした。ミサさんも”みんな”にならって三女と乳飲み子の次男の首を絞めた。次男は死ななかった。子殺しをしたミサさんも死を覚悟していたが7歳の長男に説得されて生き抜くことを選択した。このあたりの経緯を「笑いながら」語るミサさん、長男…外国人には理解しがたいだろうね…笑うしかないってことが分かるのは日本人だけか?笑えるようにならないと他人に語れない。
2017年、85歳になったミサさんの長女・藤子さんが慰霊の旅でテニアンに行く。2004年の取材開始から13年。「これでテニアンに来るのも最後」と思った藤子さんは同行した太田ディレクターに語った…ミサさんは1944年の”玉砕”のとき、7か月の乳飲み子の次男を殺そうとして首を絞めたが殺せなかった。もうそれ以上は自分ではできなかったので12歳の藤子さんに殺せ、と言ってとどめを刺させた…
戦後、生き残ったミサさんが命からがら長女、長男、次女を連れて生まれ故郷の福島に帰った時、母親から、子供を殺して自分は生き残ったことを責められたという。責められたとき、ミサさんは「責めるのは間違っている。生き残った3人の子供を生かすために自分は死ねなかった」と思ったという。美しい建前の玉砕より醜くても家族が生き残ることを取った。降伏の聖断を下した天皇と似ている。(天皇の場合は彼がいなくても日本国民は生きられるから自分はどうなっても、と考えた)
毎年8月の終戦、12月の開戦の月にはTVで戦争番組が流れる。俺も日本人研究の一環でよく見るが8月の放送では「こんな悲惨な目に会いました」「こんなことを2度と繰り返してはいけません」12月の放送では「なぜ日本は負けると分かっている戦争を始めたのか?」というメッセージ・思いが込められていることが多い。それはそれで結構だが、俺の興味は「日本人は2度とあんな悲惨なことはしないのか?どうしてそれが確認・保証できるのか?」「日本は2度と負けると分かっている戦争をしないのか?それがどうして確認・保証できるのか?」にある。
どのTV番組も「あんな悲惨な戦争は嫌だね。2度としたくないね。」「よせばよかったのに止められなかったね。」で終わっている。PDCAで言うCやAはどうなっているのか?「また戦争を始めそうだ」という兆候を検知する必要はないのか?そして「2度と戦争しないという歯止めは何か?」が皆目わからない。みんなで二度と戦争しないと誓って憲法にもそう書いたからOKか???「悲惨な戦争体験が風化しないように」毎年メディアで取り上げればOKか?野党が戦争法案などと騒げばいいのか?
これでは米英憎しだけで、どうやって米英に勝つのか(何をもって勝利とするのか)はっきりしないまま、気合で戦争を始めた時と何も変わっていない…悲惨な戦争を始め、中々やめられなかった当時の日本(軍部)が憎い、と言っているだけ。その憎い当時の日本(軍部)が復活しないという確証・保証はどこに?…なお、俺は「勝てる戦争をやる日本」になって欲しい。それができないなら潔く自衛隊も捨てて憲法9条や非武装平和論を振りかざす空想国家日本になって欲しい。テニアンにいた日本人は米軍に降伏すると「男は耳をそがれ、女は米兵におもちゃにされる」から自決しよう、となった由。今のどっちつかずの中途半端な日本は(米国の都合のいい様に)「米国におもちゃ」にされていないか?
欧米(多分冷静に自分の頭で考えることができる日本人も)は「日本はアメリカがコントロールしてるからおかしなことはできない」と考えているだろう。マッカーサーから12歳の子供と評された日本は今、何歳に成長したのか?少なくともアメリカという保護者なしには国際社会では生きていけない程度の成長具合だ、ということは言える。
例えば日本の首相がアメリカ大統領に向かって「米国は最近頼りにならないから日米安保条約もやめて米国以外の頼りになる国と組みたい」とか「ロシア、北朝鮮を見るにつけ核兵器を持っていた方が国防上安全有利だから日本も核兵器を持ちたい」…つまり、日本はアメリカの保護は不要だから自立したい…などと言ったらどうなるか?表面上、EUは日本を仲間扱いしているが、どう変わるか?中韓は警戒するかな?中国は日本を取り込もうとするか?
閑話休題>>>
「玉砕」をネットで調べてみた。出典は7世紀中国の北斉書。6世紀後半、北魏が北斉に滅ぼされた。北魏を支配していた「元」氏一族の一人「元景皓」の言葉として以下が紹介されている。
「大丈夫寧可玉砕、不能瓦全」
:大丈夫(しっかりした一人前の男)なら美しい玉のように潔く砕け散るべきで、瓦のようにぐずぐずと醜く人生を全うするような真似はしない…北斉になびかない元景皓は殺された。
瓢箪から駒みたいだが、玉砕から大丈夫が。もともと 身の丈が一丈(2m?!)ある立派な男が「丈夫」。丈夫のもっとしっかりしたのが「大丈夫」。
どうしてそれが「レジ袋大丈夫ですかあ???」に使われるのだ???
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