「140字の戦争 SNSが戦場を変えた」を読んで
ウクライナ戦争に関する報道・ネット情報を見ているとウクライナ・ロシアのFake合戦になっていて、俺は真実を知ること、そしてどちらが正しいかを考えることを諦めた。この戦争で唯一間違いないのは白人キリスト教徒の差別意識(ウクライナ人が虐殺されたときとチェチェンやシリアのイスラム教徒が虐殺されたときでは白人キリスト教徒の反応が全く違う)が厳然とあり、それを彼らは隠そうともしないし、日ごろ人種差別はいけない、と訴えているメディアもそれを堂々と報道するということだ、と心に刻んだ。人々に、何が正しいのか考えることを諦めさせることが正しくプーチンの仕掛けた情報戦の狙いだ、ということをこの本を読んで知った。この本の著者のパトリカラコスによればトランプもプーチンも嘘情報を平気で次から次へと垂れ流すが、それが正しいということを証明するつもりなど一切なく、それを正しい(というより好ましい)と感じる人に訴えて、それを正しい(好ましい)と思わない人との間に分断を生じさせるためである。嘘情報を聞かされる側が分断されれば嘘を嘘と言う声が小さくなり、人間に何が嘘で何が正しいのかを追求することを諦めさせる効果がある。俺は「真実、事実を知り、何が正しいのか考えることが人間の人間たるゆえん」だと思ってきたが、若い世代、インターネット世代は何が正しいのかなんていうことには興味がなく、何が気に入り何が気に入らないかを感じるだけ、ということ。これを悲しんでも悔やんでも仕方がなく、素直に受け入れるしかなさそうだ。こういう人種が将来を作っていくのだ、とあきらめるしかないと考え、こういう人たちが作る将来が実現するまでには自分が死んでいることをありがたいと思い、俺にはこういう風潮とまじめに戦う責任はないと逃げを打って自分を慰める。
この本では2014年にプーチンがウクライナに対してやったこと*を「21世紀の戦争」として称揚している。(もちろん倫理的、道徳的にではなく、新しい戦争の開発・実行として)俺はプーチンが2014年にできたことがなぜ2022年にはできないのか?と考える。理由は①ウクライナ側が変わった。2014年ウクライナは親ロ派のヤヌコーヴィチ大統領が追い出されて混乱しており、一方でロシアは危機感を感じ、混乱に乗ずる形で動いた。②ヨーロッパ、アメリカが2014年の二の舞は避けよう(分断しないよう)としている。また、ゼレンスキー大統領に対する国際的ユダヤ人脈の支援もあるかもしれない。①に関して言えば、軍事力というよりSNSの使い方が素晴らしい。Fake合戦でロシアに勝っている。SNSを政府や役所が使いこなしている感じでこんな政府や役所は世界中にないのでないか?Wikipedia「ウクライナIT軍」によれば、2022年のロシアによる侵攻の後、ウクライナ国防省は国内でサイバーセキュリティーのボランティアを募集し、海外(例えばハッカー集団アノニマス)からもウクライナの支援の声が上がった。イーロンマスクも衛星による通信システムを提供した。自前の軍備、自前のIT技術者がなくてもクラウドファンディング方式で調達することが可能で、しかも情報戦ではロシアの官製ハッカーやSNSに勝てるということを示したのも21世紀型の戦争かも知れない②に関して言えば2014年は明らかにロシアの思惑通り、ウクライナ国内の分断のみならず、ロシアへのエネルギー依存度によってヨーロッパ諸国の間でも親ロシアと反ロシアの分断が起きて、ロシアに対する報復、ウクライナへの支援が徹底せずロシアの「やり得」になったことは間違いない。見方を変えれば2014年にロシアがしでかしたことは国際的に認められた、ということ…これに味をしめたプーチンは調子に乗りすぎて、満州に侵攻した日本同様、2022年にはレッドラインを超えてしまったということか?
民主主義、自由主義、資本主義、グローバリズム、進歩主義…これらが疑わしくなり、同時にインターネット、SNSが生まれた。IS,プーチン、トランプらがSNSを使ってfake newsを垂れ流し、民主主義…への不信や反発を煽り、Make Islam great again, Make Russia great again,Make America great againを実現しようとする。fake newsを垂れ流すのは別に彼らの正しさや真実を訴えるためではない。ただ、それを受け取った人たちの中の何割かが真実だと信じ、信じない人たちと分断されればよい。そして人々が真実を知ろうとすることを諦め、批判や反対の矛先を鈍らせて自分たちの主張・やったことが全否定されないようにする。加えて自分たちの熱狂的信奉者が増えれば御の字…これで、いったんはトランプは大統領になった…SNSは冷静で慎重な合理的判断ではなく、「いいね」を狙う。(この本によると、「いいね」をもらうことを意識した記事、ストーリーを”ナラティブ”と言うらしい)。資本主義的アルゴリズムのおかげで個人個人お好みの情報が優先的に表示される仕組みによってこのナラティブが国境を越えて急速に拡散し熱狂的な信奉者を生み、一方で猛烈な非難・反対を生み短期間に憎悪を増幅する。(結果、分断が生じる)ISは第一次大戦以前のカリフ制によるイスラム諸国の共同体がgreatだと思い、プーチンは冷戦時代のソ連がgreatだと思い、トランプは冷戦時代の(ソ連と張り合っていた頃の)アメリカがgreatだと思う。ここで不思議なのはロシアでは長年にわたってプーチンが権力の座に居座り続けていること。プーチンの情報統制、恐怖政治のおかげ?トランプも共和党内では恐怖政治をしようとしてるみたいだけど。二人とも簡単には、くたばらない。プーチンはまだまだ大統領に居座り続け、トランプも再選される可能性がある…プーチンは、いったん権力の座から滑り落ちたら殺されると思ってるだろう。ISの根は完全に除去されたのかも気になる。(拡大する格差やイスラム教に対する差別をよくないと感じている人達が一定の確率でイスラム教の教えに「いいね」をつけることは間違いないだろう。IS復活のカギは資金次第か?)
ウクライナ侵攻は熱狂的な信奉者に対するプーチンの見栄かも?トランプも落選後、選挙の不正を訴えたら、信奉者たちが盛り上がり、議事堂占拠を扇動するような結果になってしまった?つまり、煽った側も信奉者に煽られて引くに引けなくなる、ということ。
トランプは当選後2017年1月の就任式参加人数を巡ってメディアの報道は過少でFakeと言い、ツイッターでAre we living in Nazi Geramany?と言った。プーチンはトランプより早くNaziを引き合いに出していた。トランプがプーチンを真似した?(欧米人がNaziと聞くと何を思い浮かべるのかが俺には見当がつかないが、人々を刺激し扇動する効果があるらしい…)二人の最大の共通点は「客観的真理なんてない」というニヒリズムとその拡散か?現役時代、NATOを時代遅れとしていたトランプはプーチンのNATO嫌いを意識してそう言っていたのだろうと思うが、それ以前に同盟を結んだ国同士が集団で安全保障するなんて仕組みが時代遅れだ、と言いたかったのかも。(国家の物理的な戦力がぶつかり合う20世紀の戦争よりロシアが2014年にウクライナに対して行った21世紀型の戦争を見習え、と言いたかった?)一方で2022年のウクライナ戦争をきっかけにNATOに加盟すれば対ロシア抑止力になると認める国も現れている…トランプはどう思ってるのか?
2022年ウクライナが頑張れるのはそれまでの政治家がロシア同様に汚職で私腹を肥やし大富豪**になるのに絶望し、政治家任せでなく自分たちで何とかしようと思ったせいか?ゼレンスキー大統領は今までの政治家や官僚制を否定し、身軽にこだわりなくSNSを駆使し、また、クラウドファンディング的な「乗り」で自国民にも他国にもロシアと戦うことを要求する。ロシア政府が仕掛ける情報戦に2014年は負けたが、2022年ではウクライナ政府の国境を越えて個人に依存した情報戦が勝っているということか…オードリータンみたいな優秀なとりまとめ役がきっといるのだろう、とも思う。オードリータンみたいなのを使いこなせる政府って格好いいし、うらやましい。
国家や官僚や既存のメディアはSNSを駆使できない。SNSは個人が自発的にナラティブを垂れ流し、拡散させるには向いているが、統制(決裁)を取るのが必須の官僚や、官僚にコントロールされた既存メディア向きではない。国境を越えた個人のネットワークが国家や既存メディアの発信する情報を質・量・速さで凌駕するようになった。
2003年ありもしない大量破壊兵器を言い訳にして行われたイラク戦争、2008年金融機関の強欲とそれを許した政府が起こしたリーマンショック、2013年米国家安全保障局による個人情報収集を暴露したスノーデン事件など、国家や国家のコントロールのもとで仕事をしている既存メディア、官製情報機関に対する不信が拡大し、極右扇動政治家やトランプを生み出し、2016年末、オックスフォード辞書編集部はその年を最もよく表す言葉として「ポスト・トゥルース(ポスト真実)を選び、これを「世論の形成において、客観的事実よりも感情的、個人的な意見のほうが強い影響力をもつ状況」と定義した、と。
一方で俺のような守旧派には心強いこともこの本に書いてある。2014年ウクライナ東部上空でおこったマレーシア航空機撃墜事件で何人かのインターネットゲーム・オタクがtentative&voluntaryなチーム(ネットワーク)を作り、ネット上に公開されているデータだけでその撃墜に使われたミサイルはロシアから運ばれたブークであることを突き止めたそうだ。ただし、これには後日談があって、墜落した飛行機に一番多くの人が乗っていたオランダやアメリカ、ドイツなどはブーク犯人説を正しいとしたが、マレーシアのマハティール首相は、ネット上の伝聞情報だけでロシアの関与を示す証拠はないと批判した…正しく「客観的真実なんてない」のニヒリズム。これでロシアに対する責任追及は曖昧に。
この本によると、歴史を振り返れば情報技術の開発が時代を不安定にし、変革をもたらしてきた。例えば印刷技術はそれまでカトリック教会が独占してきた聖書の解釈を、国境を越えて様々な人、グループができるようにし、宗教革命をもたらした。政治家は1920年代に普及したラジオで国民を扇動し、第2次世界大戦を引き起こし、トランプはツイッターで扇動に成功したと。さて、俺は民主主義国家の場合は、「表現・言論の自由」と「Fake Newsの垂れ流しによる扇動」の折り合いをどうつけるのか?と考える。イーロンマスクがツイッター社を買ってツイッターから閉め出されたトランプを復活させるとか。これは単にイーロンマスクがLGBTやPolitical Correstness嫌いでその点ではトランプと共通しているということではあるが、「トランプみたいな奴でも表現・言論の自由は守られなければならない」という非常にアメリカ的というか、楽天的なメッセージでもある。
SNSは国家という概念を古臭いものにし、いずれ破壊するかも知れない。実際、ISは国境を越えたカリフ制共同体を目指した。(”国家”を名乗ったが”国民国家”ではなかった)国家の存在意義、機能は衣食住やエネルギーの確保・生産及び安全保障(=生命の維持)だがSNSを使って必要に応じて同じナラティブに共感する仲良しがtentative&voluntaryなチーム(ネットワーク)を作るだけでは国家の機能を完全に代替できるか?ITやAIやSNSは生産や戦争において効率を上げたり、要員や物資の調達には役立つ。しかし人力、機械力なしには生産も戦闘もできそうにない。生命の維持の形態が変わると、また話は違ってくるが…
*ウクライナのロシア語圏の人がファシスト政権に虐殺されていると言い張り、残虐行為に対する非難や、でっち上げを大量にSNSに書き込み、宣戦布告もせず、「ロシア系住民」の投票結果をもってクリミア半島、ドネツク、ルガンスクを併合したり、独立させたり。その目的はウクライナを武力で制圧することでなく、ウクライナ人を親ロシア派と親ウクライナ派に分断し、力を弱めることにあった。もしかすると2013年スノーデンを受け入れたことにも影響されてアメリカもしている情報の監視や操作にギアが入ったかもしれない。21世紀の戦争は、当事者同士の宣戦布告も、終戦処理も、戦後和平もない。(明確な始まりがないから終わりもなく、平和と戦争の境目も曖昧)残るのはその戦争に対する国際的な評価・成功か失敗かという判定のみ。その評価・判定が良ければまた同じことを繰り返し、評価・判定が悪ければ2度としない。
**ゼレンスキーだってユダヤ系オルガルヒのコロモイスキーがパトロンで、さらにはコロモイスキーと仲良しのアメリカ人はジョージソロス、バイデン大統領…なんて真偽不明の情報も。
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