全日本柔道選手権

 2022年4月29日、斎藤立が全日本柔道選手権で優勝した。TV観戦したが実に面白かった。

第一に体重無差別がいい。「柔よく剛を制す」精神なら当然体重無差別であるべき。(俺はダイバーシティー嫌いだが)スポーツの男女別、体重別は差別。逆にこれを差別でないと言うなら人種別があってもよいし、ドーピングしてる人としてない人を分けてもよい。

第二に穴井隆将さんの解説がよい。一本を狙うのでなく、自分より早く相手に「指導」を3本受けさせて勝とうとする"globalized Judo"に対する批判・非難を隠そうとしないところが「けれんみ」がなく、爽快であった。審判が指導を出すと「不要な指導だ」と言ったり、指導が出そうな流れになると「ここで指導を出してはいけない」などと。これは決勝だけ見ても分かりにくい。予選から見ていると、穴井さんがこういった発言を繰り返すので決勝戦に向けて段々面白くなり、はまっていく。

「指導」の最大の問題は「受けの柔道」の否定。実力が拮抗してくると、技はきれいには決まらなくなる。「指導」ルールでは積極的に仕掛ける方が技が決まらなくても有利になる。消極的、つまり「受けて返す」「受けて逸らす」「攻めてくる相手の力を利用する」柔道スタイルは指導を受けてしまう。これを3回繰り返すと反則負け。がむしゃら、力任せに攻めてくる相手をいなすのも素晴らしい技術だと思うが、それは反則負けに通じてしまう。(相撲で言う「横綱相撲」…最近は」相撲もglobalizeされて、そんな品のあることをする横綱はいなくなり、横綱が率先して「勝てばいいんだろ」を実践する…これを日本人の若者に言っても理解が難しい。いわんや蒙古人においておや)

影浦との決勝戦は、この、「指導の制約」の中で最後は斎藤が技ありを決めて勝った。穴井さんがそう言ったかどうかは明確に覚えてないが審判も影浦に3本目の指導を出さないように自粛して試合を盛り上げ、また観客もそれを喜んでいたように思う。影浦もそれを感じてか、指導のことを忘れ、全身全霊をかけ、もっているすべての技術を繰り出して斎藤に挑んだ。結果、穴井さんの言う「面白い柔道」になった。つまり、決勝戦を戦っている斎藤、影浦のみならず、解説、観客、審判まで一体となって"This is Japan's Judo"を実践した。そこが非常に面白く、感動的ですらあった。*

最後の斎藤のインタビューでの受け答えもよかった。あらかじめ頭に入っていたのは皆さんへの感謝(=”みなさんおおかげ”)と、偉大な父親の足元にも及ばない、という「謙虚さ」のみ。アカデミー賞受賞者みたいに、感謝する人をいちいち上げていたのもよかった。その線で質問されればあらかじめ準備していた答えを出すが、それ以外の質問にはトンチンカン…それを自分で認めてしまうところがこれまた、けれんみがなく、好感が持てた。

素人考えで無責任なことを言わせてもらえば日本国内でやる柔道の大会で「全日本ローカル柔道選手権大会」もやって、その大会では「指導」なし、一本勝ち狙いが有利、としたらどうか?

学生時代から剣道をやってきた知り合いがいて、日本の剣道はあくまで「人を切って殺す」ことを重視して柔道のようなglobalization、スポーツ化はしないのだそうだ。オリンピック種目になることもあきらめている。剣道にしろ、柔道にしろ「道」はglobalizationはできない。あえてしようとすれば”Judo”のように「気の抜けた」代物になって、本来の「道」からは逸脱する。「スポーツと道の違い」と言ってもよい。明文化されたルールの下で勝負を決めようという「スポーツ」には「道」はなじまない。(同じことが相撲にも言える。相撲はもともと勝ち負けを争うものではなく、神様に捧げるパフォーマンスであった…神様の前で、まず真剣勝負して勝敗が決まったあと、次にまた同じ相手と勝負して、真剣勝負で勝った方がわざと負けるという風習も一部には残っていた。和を大事にする日本の神様を意識したパフォーマンス。)ルールっていったん決めると「ルールで禁じられてなければ何をやってもいい」という輩が必ず出てくる。日本人はコロナ騒ぎでルール化されていなくても自主的にマスクし、外出を自粛する人種。ルールで禁じられていないことでも自粛してやらないことが多い。それが美であり、道でり「しつけ」である。事細かく禁止事項を明文化することは美や道に反する。言い換えれば「恥ずかしいことはしない」。問題はこの恥の基準が場合や人(=空気)によって変わること。だから日本の道はglobalizeできないし、不透明でいじめにもなる。ユダヤ教のように言葉ですべてを言い表そうとすることを日本人は「無粋」といって馬鹿にし、嫌う。余白を残し、余白の意味を察し、うまく察することができれば喜ぶのが粋。

*これと似た感動を昨年のパラリンピックの”ボッチャ”で覚えた。①杉村選手の技の素晴らしさ、②ボッチャを盛り上げよう、一人でも多くの人に見てもらおうと「ビッタビタ」を連呼した解説の新井さん…日本ボッチャ協会一丸のパフォーマンス。

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