嗚呼、ピーター・ティール!

イーロン・マスクやヴァンス副大統領を使ってトランプを「操作」しているとも言われ、また彼の会社、パランティールがアメリカ政府・軍の仕事を請け負っていることから最近何かと話題のピーター・ティールについてまとめてみた。トランプ現象の背景を知りたいからだ。

原子力、飛行機、ロケット、プラスチック・・・1960年代までのアメリカは便利で画期的だけど、使って見たら環境汚染や大量虐殺といった問題を引き起こすものを次々と生み出した。規制も統制もなく「早いもの勝ち」だった。これがピーター・ティールにとってのGreatなアメリカだ。その後、規制のために法律が作られ、1970年以降、大した発明は現れなくなった。インターネットは生命維持に関わるようなものではない。

様々な規制はこのまま自由に技術を進歩させると破滅に至るから進歩を抑制するという理知主義=反キリストだ。(政府の職員はこれで凝り固まっているから大胆に入れ替える必要がある。)アメリカの企業は「競争の土俵」で競争するようになったが、ここでいう「競争」とは、既存の技術の改良改善にとどまり、生活そのものを大きく変えるような大発明は想定されていない。本当の大発明は、今までなかった新しい技術だ。こういう技術は危険だ、と避けられがちだが、今までなかった新しい技術なら競争の土俵でなく、独占の土俵で大きく稼ぐことができる。

競争の最大の問題点は「競争に勝つことが自己目的化する」こと。本来は技術開発・技術改良を巡って競争してるはずだが、競争に勝てばそこで満足して停滞してしまう。

今までなかった新しい技術ならコストは問われないが、既存の技術はコスト競争力が最大の問題となる。ここに、グローバリゼーションが出て来る。既存の技術で限られた利益しか期待できないとなると、その限られたパイを奪い合う「競争」が行われ、国民は少数の勝者と多くの敗者に分断される。逆に言えば、いくら高くたっていいから売ってくれと、客が言うような新技術がどんどん出て来る状況ならコストの安い中国で・・・なんて考える必要はないし、勝者から敗者への再分配ができる可能性もある。

1950年代までのアメリカは日本や韓国という新しいフロンティアを手に入れ、様々な大発明のおかげでパイも大きくなっていたが、1960年代以降、新しいフロンティアは獲得していない。

理知主義・民主主義の二つ目の欠陥は遅いということだ。みんなの意見を聞かないと決定ができない。(これを逆手にとってアメリカではトランプが大統領令の乱発で行政を動かし、あとからそれが合法的かどうかの判断が下される。)

ティールの言う進歩の仕組みは、破滅に至るような技術開発はAIとデータマイニングで監視して排除するというもの。(これを応用して違法移民が怪しまれる人を探り出している)

新しい技術の開発を含む全国民の個人情報を全部集めて常時監視する。「正しい」規制・統制を前提とした自由が、破滅やテロや政府批判がなく、効率よく新しい大発明・進歩を生み出す未来を約束する。

これがティールのMAGAだ。

最大の疑問・問題は「正しい」と判断する基準・根拠だ。ティールは自分自身または自分に近い人或いはAIが基準・根拠だ、と言いたそうだ。中国と同じ監視社会を目指すように見える。あるいは日本の治安維持法にも似てる。一方で、何が「正しい」のかの判断をするには、みんなで時間をかけて「議論」して決めましょう、というのが民主主義の大前提だ。

また、新しい大発明・進歩が自己目的化していて、それが結果として人間を幸福にするのか、については未知数だ。これでは討幕を自己目的とした明治維新と同じだ。明治維新には討幕後どうやって攘夷するのか、ヴィジョンは無かった。いきあたりばったりで様々な国をモデルに政治体制を整え、文明開化・富国強兵した。昭和維新を標榜し、テロを行った90年前の日本の若手軍人とも変わらない。

もっとも、「それが人間を幸福にするかどうか」考えてから行動するんじゃあ、理知主義だけど。

それから、官僚、とりわけ軍人の反応も気になる、彼らは理知主義で凝り固まっているから大量に入れ替えられるのだが、①大量の入れ替えで大混乱が起こる②トランプのやり方に反発した軍人のクーデターの 可能性もあろう。

俺流に言えば、「子どもたちは自分たちより豊かになる」というアメリカ教の教えが1970年以降信じられなくなって(ティール流に言えば何十年間も続く技術進歩の停滞に対して)アメリカ人が絶望したこと、そして民主党の民主主義・理知主義はその絶望に答えを出せないどころか、絶望の原因になっている、という認識がトランプ大統領誕生の背景にある。

俺は「何が正しいのかは分からない」と考える。ティール流の「正しい自由」には反対だ。ただ、問題は国民を監視して「正しい自由」を実現し、効率よく成長しているように見える中国だ。中国に勝つにはアメリカも中国方式で・・・とティールは言っているようにも見える。日本がかつて、先輩帝国主義国家の脅威におびえ、攘夷のために、その真似をしたのと似てないか。明治時代の日本に他に選択肢はあったのだろうか?そして今のアメリカに他の選択肢はあるんだろうか?


以下、考えをまとめるためのメモ:

競争は自己目的化し、ゼロから1を生み出す創造力を阻害する。競争でない土俵で、独占することが進歩には重要。

行き過ぎた個人の自由(プライバシーの保護)がテロリストを自由に活動させ、9.11を招いた。

スマホを見て「進歩してる」と錯覚するが、ネット関連技術は個人のアトム化(社会との関係が希薄になること)を推し進め人を内向きにさせるものだ。原発・新エネルギギー、宇宙輸送やプラスチック、抗生物質食料生産といった生活そのものを変えるような技術進歩は1970年代までに完了しその後は改良と改善といった漸進的な進化に留まっている。選挙で指導者が変わる民主主義では長期的な計画は作れないし実行もできない。この点で民主主義国家は中国に劣る。

技術停滞の起点を60~70年代の資源枯渇論や成長限界論、それらと結びついた新左翼やヒッピー運動に見ている

民主主義の生み出した法制度が技術の進歩が生み出す破壊を抑えつけようとして進歩を阻害している・・・反キリスト主義・・・地動説を否定した教会も同じ。政府は安全や平和やコンセンサスの名の下に、異論を許さない教条的な権威と化しているからぶっ壊して新しくする必要がある

社会のパイがもはや大きくならないという悲観的な認識は、他者の創造した価値に依存して生きようとする寄生的な人間を増やし、コピーするだけの「1からn」の発想やより安い労働力を求めるグローバリズム、あるいは既存の富の再分配に固執する思想が蔓延する。

反キリスト主義が言う、自由な技術進歩がもたらす破滅を防ぐには監視され、統制された自由・進歩が必要・・・神に代わってそれができるのは俺だけだ。

2025年6月、誰かが危険なAIを作成しようとすることを阻止するため、全てのユーザーのキー入力を記録して監視する世界統一監視システムが必要かどうか検討した。」と発言。

真の革新を促すのは、民主主義のようなボトムアップ型の意思決定モデルではなく、スタートアップのようなトップダウン型の意思決定モデル。統制がとれない大衆よりも専制君主に任せるべき

優れた個人でなく、衆愚の合意・支持を得ないと話が進まない民主主義では飛躍的進歩、ブレークスルーは不可能

危険な自由は、安全な奴隷状態よりもはるかに価値がある

パランティールはトランプに指名され、複数の省庁の国民データにアクセス。移民を含む国民の監視、トランプ政権から見て好まざる個人の特定ができるようになった可能性がある。

政治を本質的に「ゼロサムで、狂っている」有害なゲームだと断じる。それは新しい価値を創造せず、勝者と敗者を生み、必然的に敵を作り、関わる者すべてを消耗させるからだ。彼が真の解決策と見なすのは、テクノロジーの発展を加速させる新たな統治形態である。「0から1」の創造を目指すスタートアップが、成熟後、最終的に最小公分母的な悪い結果に陥る合議制の民主主義ではなく、創業者による君主制として機能する時に最も力を発揮するように、社会の進歩には明確なビジョンと強い意志が必要なのである。そして、個人の自由を守り、加速させるためにも無秩序な自由よりむしろ階層性つまり階層が生み出す分散的自由が重要となる。

最小公分母・・・1/2+1/3の計算をするとき、2と3の最小公倍数から、3/6+2/6と計算する。これを最小公分母という・・・別に分母とする必要はないんだけれど、「関係者の意見を取り入れる」の意だろう。

無秩序な自由・・・全員が平等に自由なこと

分散的自由・・・残されたものを選ぶしか選択肢のない最下層の人には自由がない・・・階層を作り、階層によって自由度が違う。


以下、参考としたネタ:

Wikipedia

2016年の米大統領選でいち早くドナルド・トランプを支持し[5]2016年11月には、政権移行チームのメンバーとなった。トランプの大統領退任後も、「MAGA」と呼ばれる運動に共鳴し、2022年の中間選挙では、トランプ派の共和党議員候補者に巨額献金を行っている[5]。しかし、2023年4月28日、トランプに不満があるとして共和党への直接的な支援は撤回した[23]

2025年3月20日、トランプ大統領によって発出されたNo.14243番に相当する大統領令[24](政府機関内の情報サイロ化の排除と効率化)に貢献する企業として、Palantirが指名されており、複数省庁を跨ぐ規模のアクセス要求は、米国民のデータベース化や反対意見や移民の監視などに使用されるリスクを示唆または政権意思の反映とも捉えられると複数の米メディアによって取り沙汰された[25][26]

高校卒業後、スタンフォード大学で哲学を学ぶ。中でもルネ・ジラールミメーシス理論に大きな影響を受け[31]、「人間の欲望は他者の欲望を模倣(ミメーシス)するという性格を持っており、こうした模倣は無意味な競争を引き起こす。また、競争はいったんそれ自体が目的となると進歩を抑制してしまう」と言うジラールの考えを、自身のビジネスと私生活に応用している。「競争すること自体に気を取られてしまう結果、我々は、世界で重要な、超越的な、あるいは本当に意味のあるものを見失ってしまう。」とティールは述べている[32]

ティール在学時のスタンフォード大学では、アイデンティティ政治ポリティカル・コレクトネスに関する議論が活発で、「西洋文化」プログラムは、過度に西洋中心主義的であるとの批判を受けて、多様性と多文化主義を押し進める「文化・思想・価値」コースに取って代えられた。この取り組みは、キャンパス内での論争を引き起こし、アイン・ランドの作品を愛読[29]するなど、保守的でリバタリアン的な思想を強めていたティールが、保守系の学生新聞『スタンフォード・レビュー』を創刊するきっかけとなった。

Palantir

2003年5月、アレックス・カープと共に、パランティーア(水晶玉)[39]にちなんで名付けられた、ビッグデータ分析会社Palantir Technologies Inc.を創立し、2020年現在も会長を務めている[40]。同社のアイデアは、「PayPalが詐欺と戦うために使用していたアプローチは、テロとの闘いのような他の状況にも適応できる」という認識に基づいていると述べ、9.11アメリカ同時多発テロ事件を受けた米国での議論において、「プライバシーを減らしてセキュリティを強化するか、プライバシーを増やしてセキュリティを低下させるかと述べた。Palantir社では、政府の諜報機関へ「追跡可能でありながら干渉度の最も低いデータマイニングサービス」を提供することを目標とした[41]。パランティアが提供しているソフトは、「ダイナミックオントロジー」という技術を使用したデータマイニングそのものである。

最初の支援者は、中央情報局(CIA)のベンチャーキャピタルであるIn-Q-Tel。その後、着実に成長し、2015年には200億ドルと評価された。ティールは筆頭株主だった[42][43]

同社のデータマイニング技術は、CIAや国家安全保障局(NSA)、国防情報局(DIA)といった政府情報機関で活用されている。2010年以降は、金融大手のJPモルガンや、航空機開発大手のエアバス英国石油大手のBPとも契約した。

2019年から2020年にかけて、日本ヤマトHDや、富士通損保HDなどと提携をし、日本のDXを改善させるために、戦略的提携を行っている。その他、日本政府(防衛省金融庁)とも、政策判断AIの開発で協議中である。

2021年2月、IBMと協業することを発表[44]。Palantir FoundryをIBM Cloud上で利活用できるようにする。また、IBMのAIプロダクトである、IBM Watsonとも連携して利用できるようになる。

イギリスでは、政府が新型コロナウイルスパンデミック(COVID-19)の感染拡大追跡や、監視カメラの分析に、Palantirの技術を使用している。また、COVID-19関連では、神奈川県がPalantirの分析ツールを使用して、感染拡大の追跡をしている。

2022年、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、Maxar社の衛星画像や無人機のデータを分析する目的で、ウクライナ軍と技術供与を検討中である。PalantirのGothamと呼ばれる製品は、衛星写真だけでなく合成開口レーダーやミサイルの発射を検知する赤外線イメージャ等のデータを統合して分析することができる。

米国防総省は、Palantirとマイクロソフトのクラウド技術を活用し、陸海空宇宙、全ての区域の戦闘機やロボットを、このシステム上で管理する、「統合全領域指揮統制(JADC2)」と呼ばれるソフトウェア群を構築中である[45]。これにより、F-35XQ-58AMQ-9などの空軍戦闘偵察機、B21等の無人爆撃機、陸軍の対空ミサイル防衛システム、ドローン検知システム、地上のロボット兵等すべての軍種のセンサーを1つのネットワークに接続し、AIを用いて敵国の行動予測、偵察活動の自動化や、戦闘地域からのリアルタイム情報伝達を可能にする。

2022年11月、ロッキード・マーティンと協業することを発表し、米海軍のシステム刷新に向けて作業を進める[46]

2022年6月、Google Cloudとの提携を共同発表[47]。産業向けのPalantir Foundryという製品がGoogle Cloud上で提供可能となり、法人向けの在庫管理分析システムや資金洗浄検知システム、運輸販売サプライチェーン最適化、電力需要予測、サイバーセキュリティなどのサービスが高度化される。GCPのBigQueryBigtable, 機械学習といったデータ管理分析プロダクトと連携する。

2022年12月21日、イギリス国防省は、Palantirのシステムをイギリス軍に導入する契約(7500万ポンド)を発表した[48]

2023年1月、マイクロソフトと提携し、Azure上でPalantir Foundryを提供できるようにしたことを発表した。Azure Data Lake, Azure Synapse Analyticsなどの法人向けデータ分析サービスと連携する。また、国防総省向けのAzure Governmentとも連携できるようにする[49]

当初は、トランプと対立していたテッド・クルーズティー・パーティキリスト教原理主義者が支持)を支持していたが、トランプの娘婿で側近のジャレッド・クシュナーと知己を得てからはトランプ支持に変わったとされる[120]。その当時、トランプ支持を公言するハイテク業界の大物は皆無だったが、ティールは批判も恐れず支援した。その甲斐あって11月には政権移行チームのメンバーに選任され、科学技術分野の他、財務省、商務省、国防省の人事に一定の影響力を及ぼすものとマスメディアからは見られた。また投資会社の友人であるマイケル・クラチオスを、ホワイトハウス科学技術政策局の局長に任命させた。

2024年大統領選挙においてトランプの副大統領候補に選出されたJ・D・ヴァンスとは投資会社時代からの友人であり、資金援助している。また、ヴァンスの上院選出馬に向けて設立されたPAC(政治活動団体)の「プロジェクトオハイオ・バリュー」に1000万ドルを寄付した[121]

トランプ支持の動機としては、これまでの「オバマ政権の機能不全」と、イラク戦争シリアへの攻撃など間違った戦争を支持したヒラリー・クリントンには大統領の資格がないということを挙げていた。

経済的には、同じ土俵で競争しないという良い意味での「独占」を目指すべきだと主張している。

また、分権化をもたらす「リバタリアニズム的な暗号通貨」に対して、人工知能の技術は「共産主義的な中央集権」をもたらすと評している[122]

シリコンバレー「1940年代の原子物理学者よりも真実を隠している」と批判し、人工知能の技術をめぐって「中国清華大学テンセント)と協力するグーグルは国家への反逆者」と主張した。これを受け、トランプ大統領はアメリカ合衆国司法長官にグーグルへの捜査を求め[123][124]。Google傘下のDeepMindの技術が、清華大学を通じて中国人民解放軍及び軍事研究院に流れていると危惧している。

2011年に未来に関する自身のエッセイ「The End of Future」を執筆、公開した[125]。同著で、人類の科学&技術革新は停滞しており、”技術革新の停滞”が今日における米国や欧州の景気低迷及び経済の停滞を招いていると分析している。2019年、UCLAで開催されたパネルディスカッション「インターネット生誕50年」にて「米国や西欧及び日本は先進国だが、いずれの国もイノベーションが見られない。私たちは終わっている」と発言 [126][127]

空飛ぶクルマを望んでいたのに、手にしていたのは140文字(Twitter)だ
2011年 宣言文のサブタイトル、「未来に何が起こったか?」- Founders Fund
確かに情報の世界では、コンピューター、ソフトウェア、インターネット、モバイル技術で多くの革新があったと思う。 しかし原子、超音速輸送、宇宙開発、新エネルギー、新しい医療機器の世界ではそれほど多くない。
タイラーコーエンとの対談

自身の見解では、デジタルの発展をのぞけば、物質的な進歩は20世紀半ばから止まってしまっているという。ビットの世界では進歩が続いたが狭い領域での進歩に過ぎず、しかもこうしたテクノロジーは内面的であり、個人のアトム化(社会との関係が希薄になること)を推し進め人を内向きにさせるものだったという。宇宙輸送やプラスチック、抗生物質食料生産といった生活そのものを変えるような技術進歩は1970年代までに完了しその後は改良と改善といった漸進的な進化に留まっていることを懸念している。上記にある”空飛ぶクルマを望んでいたのに...”諸々の言及は、あくまで例え話であり”小型原子力電池が各家庭に欲しかったのに...手にしていたのは○○だ”と言い換えることもできる。2011年以降の目新しい開発のほとんどが、過去の開発を巧みに改良、再包装しただけのガジェットにすぎないという。1900年代初頭、すでに米国では電気自動車が人気を博していた。[128]1993年にかけて、米国防総省は垂直離着陸が可能なロケットモジュールを実現させていた。[129]

私たちの環境から気をそらすiPhoneは、私たちの環境が不変で静的であるという事実からも気をそらす。 滑らかな表面のiPhoneを手に入れ、自分たちは進歩していると自分に言い聞かせているが、一方で「食料価格が上昇したら」キャットフードを食べつつ満足するしかない世界になっている。
私が技術進歩で興味を持っているのは、インプットではなくアウトプットです。(ゲノム解読が完了したという報告で終わらず、それによってどんな薬が生まれ成功例が生まれたかを見る)  私はGoogle会長やベゾスなどと議論をしたことがあります。当時、停滞を唱える私に対して彼ら3人は全員”世界はうまくいっている”派でしたが、時間が経ち意見を少し変えたようです。

米国と西欧の金融財界政治エリート、大企業取締役、国家軍部が集まる年次総会「ビルダーバーグ会議」の常連であり、運営委員会のメンバーである[130]。この会議に対して、「ビルダーバーグ会議が素晴らしいのは、政治的に正反対の立場にある人たちを結束させるところである」と評した。また、この会議は陰謀論の中心として話題によく挙げられ、陰謀論者の批判の的となることがあるが、そういった論調、世界の陰謀論に対して、「この会議に参加する中、私はむしろ"計画"そして"戦略"といったものが存在しないことに強い印象を受けた。世界には陰謀説が溢れているが、古風な陰謀などはほとんど存在しない計画を立てて遠い将来について深く考える政治指導者は、中国の指導部(中国共産党中央政治局常務委員会)くらいのものだろう。衝撃なのは、実際には我々に何の計画もないということだ」と言及した[131]

また、西側諸国全体が結束できておらず、漂流と分断が進んでいると分析している。加えて、米国や欧州政府のシステムの動脈硬化があまりに進んでおり、既存の法制度が技術の進歩を阻害しているという見解を示した。今後は先進国がこれまで以上に発展できる方法を探すべきという、IT産業からの転換を提案するような考えをもっているようである。

2021年11月、COSM2021での公演で「汎用人工知能への道のりは思ったより遠く、ラリーやイーロンのような億万長者は情熱を失っている」とした上で、「人々はAGIよりも監視用AIについて心配すべきである」と言及し[132][133]、翌年11月のCOSM2022では「TikTokは基本的に、興味思想が分散化されて高まった矛盾によって我々を混乱させることを目的とした武器である」「多元宇宙論からシミュレーション仮説への移行は、コンピューター科学者と物理学者の現実の本質に関しての認識対立の結果」と発言した[134]

2022年11月4日、スタンフォード大学でのカンファレンスで、「人々がmRNAワクチンの技術に不快感を持っていることを認識している。それは生物兵器開発の技術ととても近い距離にあるから」「科学技術の危険性よりも全体主義(政治体制)の危険性のほうが遥かに高い」「米国は45年以上原子力関連技術に対して革新を起こせなかった」と発言[135]

2025年6月、New YorkTimesが企画しているInteresting Timesと題したポットキャスト内で「アルツハイマー認知症に対する創薬は間違った科学ベースで40年間続けられ進歩が見られなかった。」「AIの賢さを測るとき、IQやElo Scoreばかり気にするが、地政学や経済に影響を与えられないならAGIではない。」「誰かが危険なAIを作成しようとすることを阻止するため、全てのユーザーのキー入力を記録して監視する世界統一監視システムが必要かどうか検討した。」「イーロンは今も火星移住に本気かどうか疑問」と発言した。[136]

2025年8月、反キリスト政治の分野を含む”キリスト教の信仰が世界に対する理解にどう影響しているか”について自らの考えを述べる講演会に招待された。このイベントを主催するのはActs 17 Collectiveと呼ばれる非営利団体であった。[137]2024年10月にはスタンフォード大学フーバー研究所とのインタビューで「ヨハネの黙示録に登場する反キリストの姿が、終末的な破滅への恐怖を利用し、世界統治による解決策を提示することで出現する可能性がある」と述べていた。[138]

私の推測的な持論はこうです。もし反キリストが権力の座に就くとしたら、それは四六時中アルマゲドンの話をすることによってでしょう。反キリストのスローガンは "平和と安全" です。平和と安全そのものに何も悪い点はありません。 ですがその言葉が、極端な世界つまり "平和と安全" の対極にあるものが "アルマゲドンと万物の破壊"であるような世界では、全く違う意味合いで響くのではないかと想像しなければなりません。


 2009年、ティールは「The Education of a Libertarian」という記事をリバタリアン系のシンクタンクケイトー研究所のブログに寄稿した。この記事でティールは、自分は「自由と民主主義が両立する」とはもはや信じていない、と言った[139]。Adam Rogersは、この論考が政府効率化省(DOGE)プロジェクトの下敷きとなったと論じている[140]


 

文春

トランプ大統領とヴァンス副大統領の後ろ盾になっているピーター・ティールは、トランプ政権時代の右派勢力の中でもっとも影響力のある思想家だといえよう。そのIT業界での地位と巨大な財力も見逃せない。好悪は脇に置いて、ティールの思想に分け入ることは、アメリカの行方を考える上で避けられない。

 一般に、ティールはIT分野で徹底した自由を求めるテクノリバタリアンとみなされてきた。決済サービスPayPal創業(1998年)やフェイスブックへの初期投資(2004年)などで電子商取引やソーシャル・メディアといった巨大業界の発展に大きく寄与して「シリコンバレーのドン」とまで呼ばれた。そのティールが、そうした発展を歪んだものとして批判し始めたのは2010年代だ。

 18世紀後半の蒸気機関発明から約200年、自動車が普及し始めた20世紀初頭から数えればたった60年余りで人類は月にまで到達し、大西洋は音速ジェット旅客機で5時間で結ばれ、技術は急速な発達を遂げた。それなのに、1970年代でそうした進歩は止まり、以来50年、異様な発展を見せたのはソーシャル・メディアの世界ばかりだ。「空飛ぶ自動車の代わりに手に入れたのは140文字だけだ」というティールの台詞は、人類社会のそうした技術停滞を嘆いたものだ。

 ティールは、民主党の支持を背景とするそうした偏頗な発展と繁栄に躍るシリコンバレーから距離を置きだし、2016年にはIT業界の大物でただ一人、共和党のトランプ支持に回って、アメリカの根本転換を目指す新たな右派思想運動(ニューライト)に加わっていった。ティールは、技術停滞の起点を60~70年代の資源枯渇論や成長限界論、それらと結びついた新左翼やヒッピー運動に見ている。80~90年代の学生時代から左派、特に文化的左派に反発していた彼にとって、トランプ支持は自然な面もあった。

 そのティールが2年半ほど前からさかんに語り出したのが、人類の科学技術発展とキリスト教の神の問題だ。具体的には聖書に描かれる「世界の終末」と、その前にキリストの似姿で現れるとされる「反キリスト」の問題である。講演や対談などで語ってきたことを秘書役のサム・ウルフの協力を得てまとめたのが本稿(原題「世界の終わりへの航海」)だ。テーマは冒頭に示されるように科学技術の発展は「反キリスト」と世界の終わりを導いてしまうのか、それともそれを抑え込み回避できるのか、ということだ。

 ティールはまず、近代的科学思想の基礎を据えたフランシス・ベーコンによる一種のディストピア小説『ニュー・アトランティス』(1627年)を通し、「反キリストが支配する世界規模の技術官僚的帝国」を論じる。ベーコンに対比されるのが、1世紀後に『ガリヴァー旅行記』(1726年)を著したジョナサン・スウィフトだ。スウィフトは、科学知識による発展を追い求める近代と、神についての知識を追った古代を対置し、古代人=信仰の味方をして文学的には勝利したが、現実世界はベーコン流科学が圧倒していった。

 20世紀に入るとベーコン流科学技術の発展は、全地球規模の凄惨な殺戮をもたらし、核兵器まで登場する。科学技術による人類滅亡があり得る時代に入った。「科学が世界を終わらせる手段を生み出した一方で、今や世界は科学を終わらせる手段を求めだした」。ティールによれば、後者は「反キリスト」による統治を指す。ティール自身は24年秋の対談で「反キリストも望まないし、世界の終わりも望まない」と述べ、地球規模の管理社会(反キリスト)と人類滅亡の間の「狭き道を探したい」と語っている。

 そのティールに今、さまざまな示唆を与えているのが日本の長編コミック『ワンピース』だ。ティールは『ワンピース』を「反キリストの壮大な歴史の流れ」を描く作品と見て高く評価してきた。「イム」という秘密の君主を崇める「五老星」が支配する世界政府こそ反キリストの管理社会だ。それと果敢に闘う主人公ルフィはキリストを映している、とティールは見る。そして、作者の尾田栄一郎が結末で科学技術を徹底管理するのでもなく、破滅するのでもない、第三の「狭き道」を示すか、期待を込めて待っているのだ。

 大きな曲がり角に入ったアメリカ(と世界)に影響を及ぼしかねないティールの思考が今、どこにあるのか。本論考にそのヒントがある。

(会田弘継)

文春

2025年1月20日に行われた、ドナルド・トランプ大統領就任式の光景は、シリコンバレーのテックエリートたちがもはや民主党の味方でもリベラルの味方でもないことをはっきりと証し立てることになった。就任式の壇上、演説するトランプの背後に美しい半円を描くように居並んだのは、ジェフ・ベゾス(アマゾン創業者)、サンダー・ピチャイ(グーグルCEO)、マーク・ザッカーバーグ(メタCEO)、ティム・クック(アップルCEO)、セルゲイ・ブリン(グーグル創業者)、そして今や世界一の大富豪となったイーロン・マスク、といったシリコンバレーのビッグテックを代表する面々。

 これら、テックエリートの右旋回を考える上で象徴的と言える人物を3人挙げてみる。ピーター・ティール、イーロン・マスク、第二期トランプ政権下で副大統領を務めるJ・D・ヴァンス。そして、彼ら3人に間接的ないし直接的に思想的影響を与えたとされる人物こそがカーティス・ヤーヴィンに他ならない。

J・D・ヴァンスとピーター・ティールの関係は比較的よく知られている。ヴァンスはイェール大学ロースクールに在学中、ティールの講演を聞いたことをきっかけに、法曹界のキャリアからドロップアウトすることを決めた。2016年にはティールが創業したベンチャーキャピタル(VC)に転職。「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」に住む白人労働者階級、言い換えれば「アメリカの繁栄」から取り残された人々の窮状と怒りを描いてベストセラーとなったヴァンスの回想記(メモワール)『ヒルビリー・エレジー』が出版されたのも同年で、推薦文を書いたのは誰であろうティールであった。ヴァンスは2021年、上院議員選へ出馬表明をしたが、その際に資金面での支援を行ったのもティールである。以来、ティールはヴァンスの師でありメンターであり続けている。

 ティールの思想を一言で要約すれば、保守系のリバタリアンということになろう。若い頃にイーロン・マスクらとともにスタートアップ企業ペイパルを立ち上げ、シリコンバレーで頭角を現す。技術停滞への危機感を軸に、硬直化をもたらす官僚主義的規制やリベラル的価値観を敵視。「自由と民主主義はもはや両立しない」という挑発的な発言に見られるように、政治依存を減らしながらテクノロジーや制度設計によって自由の領域を拡大するべきであるという発想が根底にある。ティールの考えでは、真の革新を促すのは、民主主義のようなボトムアップ型の意思決定モデルではなく、スタートアップのようなトップダウン型の意思決定モデルに他ならない。スタンフォード大学のある講義のなかで、「スタートアップや創業者は独裁的なほうに傾きがちだ」と彼は言い、それはもちろん良いことなのだと付け加えた。「統制がとれない大衆よりも専制君主に任せるべきだ」。

 独裁君主制すら擁護しようとする、こうした思想の背景にヤーヴィンからの影響を見て取るのはたやすい。

政府を“リブート”する

 カーティス・ヤーヴィン。ソフトウェア開発者兼ブロガー(筆名はMencius Moldbug)にして、「暗黒啓蒙」のキープレイヤーの一人。ティールは、過去にヤーヴィンが立ち上げたスタートアップ(Urbit/Tlon)に出資していた。「2016年の大統領選をティールの自宅で一緒に見た」とヤーヴィンが語るなど、私的な交流もあったと見られる。思想面では、上述の「自由と民主主義はもはや両立しない」に象徴されるティールのアンチ・リベラリズム的な思想に影響を与えたことが指摘されている。ヤーヴィンの反-民主主義的なヴィジョンによれば、国家は非効率な民主的統制よりも「CEO」型の君主的統制によってスタートアップ企業のように再編されるべきであるとされる。さらに2012年頃には、「すべての政府職員を退職させよ(Retire All Government Employees、略してRAGE)」という提案を打ち出している。RAGEの目的は、政府を「全能の執行権力」の下で再起動(リブート)することにある。

 ヴァンスは2021年、ティールにトランプを紹介され、同年に右派系ポッドキャストのなかで、ヤーヴィンの思想を紹介した上で、「もし私がトランプに一つだけ助言できるとしたらこう言うだろう。行政国家に属する中間層の官僚を全員クビにして、我々の側の人間と入れ替えろ」とRAGE構想を思わせる発言をしている。

 一方、実際にRAGE(全政府職員の退職)構想を実行に移しているように映るのはイーロン・マスクだ。彼は2025年1月にDOGE(政府効率化省)のトップに就任して以降、連邦職員の大幅な削減を強行した。『ワシントンポスト』紙は、DOGEの急進的な行革アジェンダは、ヤーヴィンのRAGE構想から影響を受けていると関係者が証言したと報道。ただし、この時点ではまだヤーヴィンとマスクは直接的に会ったり協働したことはない。

 しかしDOGEの任期を終え、トランプとも離反したマスクは「アメリカ党」の立ち上げを突如として表明する。そして『ニューヨーク・タイムズ』紙の報道によれば、2025年7月、マスクは新党の立ち上げ構想についてヤーヴィンに助言を仰いだと伝えられている。

 ティール、ヴァンス、そしてマスク。世界を動かす力のある三者に対するヤーヴィンの影響力はいまだ未知数だ。影響力が過剰に見積もられている可能性も当然ある。ただし、もしも今後の政治がヤーヴィンのヴィジョン通りに進んだ場合、民主主義は徹底的に破壊され、より権威主義的な体制(たとえば独裁君主制のような)へと移行していく可能性があるだろう。彼らの動向は今後も注視される必要がある。

Zennピーター・ティール思想の整理とアップデート

 ピーター・ティールが探求する「秘密」とは、「ごく少数の人しか同意しない、重要な真実」のことである。この概念を理解するために、まず「秘密」を他の二つの概念と区別する必要がある。1つは誰もが知る慣習であり、これは社会で広く受け入れられているため秘密ではない。スペクトルのもう一方の端には、原理的に解明不可能な謎が存在し、これもまた探求の対象となる秘密とは異なる。ティールの言う「秘密」とはこの「慣習」と「謎」の中間に位置する、困難ではあるが可能な領域にある真実を指す。それは型破りな視点や粘り強い探求を通じてのみ発見できるものであり、真の進歩を生み出す源泉なのである。さらに興味深いのは、これらの概念の関係が固定的ではない点だ。時には、かつては常識であった「慣習」が時代と共に忘れ去られ、再び探求すべき「秘密」へと変化することもある。これは、世代間で信念が移り変わることで、過去の真実が覆い隠されてしまうために起こる現象である。

しかし、現代社会には秘密の探求を妨げる4つの大きな要因が存在し、これらは社会全体の構造や文化に深く根ざしていると彼は言う。

第1の漸進主義は、安全な進歩への執着である。学校では奇抜な発想よりも与えられた課題を少し上手にこなす生徒が評価され、企業では既存事業を10%改善する計画は承認されても全く新しい分野への挑戦は敬遠される。この文化は人々を失敗のリスクが低く、成果が予測可能な範囲に留まらせ、世界観を根底から覆すような大きな発見を見過ごさせる。
 第2のリスク回避は、間違うことへの恐怖に他ならない。秘密とは定義上、大多数が信じていない孤独な仮説であり、その探求が失敗に終われば時間や社会的評価のすべてを失いかねない。正解が保証されていない道へ進む精神的なコストがあまりにも高いため、人々は世間の合意という安全地帯から出ることをためらうのである。
 第3の自己満足は、探求意欲の欠如を意味する。現代の先進社会はある程度の豊かさと安定を達成しており、その快適さが「わざわざ困難な真実を探求する必要はない」という満足感を生む。今が十分に快適なのだから、波風を立てるような新しい真実は不要だという無意識の現状維持バイアスが知的な探究心を鈍らせる。 
 第4の平等主義は、突出した個人への不信感という風潮である。一部の天才だけが特別な真実を掴むという考え方はエリート主義的だと見なされ、未来を予見するビジョンを持つ者は狂人扱いされかねない。真実は個人の閃きではなく、多くの人々の合意によって見出されるべきだという考え方が主流となり、一人の人間が持つ特異な洞察の価値を信じることが難しくなっているのだ。

これら4つの要因が壁となり、我々は大きな発見から遠ざけられている。ではこの壁の向こうにある我々が探求すべき秘密とは具体的にどのようなものなのだろうか。ティールによれば、秘密には大きく分けて2つの種類がある。1つは形而上学的で宇宙の基本的な性質を扱う自然の秘密であり、もう一つは人々が語りたがらない事柄や隠された動機に関する人間に関する秘密である。ここで、ティールが最も重要視するのはこれら2つが交わる交差点である。この交差点とは、ある自然の秘密の発見が特定の人間に関する秘密によって意図的、あるいは無意識的に妨げられている領域を指す。この洞察が示唆するのは、ブレークスルーへの近道は純粋な科学探求だけでなく、なぜ人々はこの分野を研究しないのか?という人間社会への問いにあるということだ。社会的なタブーや常識という壁の特定こそが、未開拓の研究領域を照らし出す地図となり得るのである。歴史がその好例を物語っている。地動説がそれである。地球が太陽の周りを回っているという自然の秘密は、地球が宇宙の中心であるという教会の絶対的な権威、すなわちそれに逆らうことは許されないという人間に関する秘密によって固く閉ざされていた。地動説を明らかにするには、まず教会の権威という人間社会のタブーに挑戦する必要があったのだ。

このように交差点に存在する秘密の探求は、極めて強力な障壁に直面する。それは社会のタブー・権力構造の不都合な真実・人々が認めたがらない心理などデリケートな領域に存在するからだ。新しい物理法則の探求が失敗しても社会的制裁は少ないが、人間に関する秘密を公言することは既存の権威や社会規範への挑戦と見なされ、異端者として排除される直接的なリスクを伴い、リスク回避の姿勢を極度に強める。また、それは社会が目を背けてきた問題や人々の快適な自己満足を脅かす行為であり、強い抵抗に遭うのは必至である。このように極めて大きな社会的・心理的障壁が存在するからこそ人間に関する秘密の領域または自然の秘密との交差点には、未だ手つかずの重要な真実が眠っている可能性が高いのである。

この秘密の概念は、ビジネスの世界において決定的な意味を持つ。真に価値があり、独占的な地位を築ける企業とは他社が気づいていない独自の秘密を発見し、それに基づいた事業を構築した企業である。それは既存の製品をコピーしたりわずかに改良する「1からn」の漸進的な進歩ではなく、全く新しいものを創造する「0から1」の飛躍を意味する。

したがって、我々は常に「ごく少数の人しか自分に同意しない、重要な真実とは何か?」と自問し続けなければならない。そしてその答えは、「ほとんどの人はXを信じているが、真実は非Xである」という逆張りの構造を持つはずだ。これは常に逆張りしろということではなく、世間の認識や評価を鵜呑みにせず、まだ誰も気づいていない価値つまり「隠された秘密」を見つけ出すことである。またこの問いに答えることにはもうひとつの困難が伴う。それは自分だけが大切な真実を知っていると答えるのは、心理的にも社会的にもどこか居心地が悪いということだ。ここで要求されているのは大学は機能していないとか政治官僚は腐敗しているといった大勢が賛成しそうな答えではない。問われているのはまさしく「人が反対するような真実」であり、そういったことをあえて表明するのは非常に居心地が悪く、もし間違っていた場合非常に辛い。だが、これこそがまさに新しいことをはじめるときの本質的な課題なのである。新しいアイデアをかたちにするとき、新しいビジネスをはじめようとするとき、世界を新しい視点で見ようとするとき、必ずこの居心地の悪い思いをすることになり、そこでは聡明さよりも定説や常識を打ち破る勇気が必要になる。そして、この世の中では天才よりも勇気のある人のほうが不足しているのである。人類の知識の地図には未だ多くの空白地帯が残されており、それら未踏のフロンティアを探求することこそが、未来を切り拓くための挑戦なのである。

独占のための競争

ピーター・ティールが提唱する思想の核心には、経済学の常識を覆す独占と競争の再定義が存在する。彼は一般的に同義語と見なされる「資本主義」と「完全競争」は、全くの対極にあると断じる。資本主義が資本の蓄積を目的とするのに対し、完全競争の世界は、新規参入によって利益が即座にゼロに収斂してしまう全く儲からない世界だからだ。起業家は唯一無二の地位すなわち「独占」を目指すべきあり、競合がいないことこそ、独創性の高いことを極めて上手にやっている証なのである。

この独占対競争という極めて重要な概念が、なぜ多くの人々に理解されないのか。その理由をティールの主張から知識の問題と心理の問題という2つの側面に分類していく。

知識の問題:市場で語られる嘘
 第1に独占の現実は意図的に覆い隠されている。独占企業は、独占禁止法などの追及を恐れ、自らの独占状態を公言しない。彼らは嘘をつくのではなく、自らが事業を行う市場の定義を巧みに広げることで現実を歪曲する。その典型がGoogleである。彼らは自らを検索エンジン市場の独占者とは定義せず、巨大な広告市場の1プレイヤーに過ぎないと主張したり、AppleやOpenAI、Metaなど世界屈指の企業と競合する巨大なテック企業であると語る。そうすることで、自らが厳しい競争に晒されていると主張し、独占の事実を巧妙に隠蔽するのである。逆に、東京の寿司店のように競争が激しい業界でこれから勝負しようとする事業者は、投資を呼び込むために非現実的なほど市場を狭く定義することが多々ある。フランス料理とインド料理が融合した寿司店は東京で唯一無二だといった具合に、顧客の嗜好とは関係のない独創性を無理やり演出して競争から目を逸らさせる。このように独占企業は市場を広げ、非独占企業は市場を狭めようとすることから両者の本質的な違いは見えにくくなる。ティールはこの力学を理解している者はGoogle社内ですら一握りに過ぎず、多くの社員は成功の理由を給料や福利厚生のような表層的な事柄に求めてしまうという。

心理の問題:ミメーシスと競争という名の罠
 第2の理由は、より根深い心理的な問題である。トルストイは『アンナ・カレーニナ』の冒頭で「幸せな家族はみな同じように見えるが、不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある」と書いたが、ビジネスの世界ではその逆が真実だとティールは言う。幸せな企業は、それぞれが独自の秘密を発見し、独占を築いているため、みなそれぞれに違う。一方不幸せな企業は、他社との類似性すなわち競争から逃れられず、みな同じように苦しんでいる。この洞察は、ティール自身の経験に深く根ざしている。教育熱心な環境で育ち、スタンフォード大学、そしてニューヨークの著名な法律事務所へと彼は競争の階梯をひたすら勝ち進んできた。しかし、その法律事務所は奇妙な場所だった。誰もが入りたがる一方で、中にいる人間は全員がそこから脱出したいと願っており、ティールはそこをアルカトラズ刑務所と評する。
多くの同僚は、長年の競争を通じて築き上げられた自尊心やアイデンティティと職が不可分になっており、正面玄関から出て行けばいいだけのその場所から抜け出すことすら考えられなくなっていたのだ。
なぜこのような罠に陥るのかをティールは我々は競争のレースの中であまりにも頻繁に「困難なこと」と「価値あること」を混同することを学ぶからであると主張している。激しい競争はただ他人としのぎを削るという事実だけで物事を困難にする。そして、いつしかその競争の激しさ自体が価値を測る代理指標となってしまい、人々は追い求めているものが真の達成であることを忘れ、ただ永遠に競争するためだけに訓練されているかのようになる。そこに本質的な価値がない限り人はただ競争のために競争しているに過ぎないのである。
 またこの競争の罠の根源を、ティールはフランスの思想家ルネ・ジラールの「模倣理論(ミメーシス)」を引用し説明する。人間の欲望は自発的なものではなく、他者の欲望を模倣することで生まれる。この模倣が同じものを求める者同士の闘争、すなわち競争を引き起こすのだ。外部から競争を俯瞰して見ると激しく争う当事者たちはしばしば驚くほど似通っていることがわかる。そして争いのプロセスそのものが両者をさらに同質化させていく。当初の目的は次第に重要性を失い、いつしかライバルを打ち負かすという競争行為そのものが至上の目的へとすり替わってしまうのだ。ビジネス、特にホワイトカラーの世界の大半はこのミメーシス的な競争の悲劇に支配されている。企業は競合他社に夢中になり、互いを模倣し合い、類似性へと収束していく。この「違い」が消滅していくプロセスこそが競争の悲劇的な本質なのである。この力学は、ハーバード大学の教授陣について語ったヘンリー・キッシンジャーの「学会での競争は非常に激しい。なぜなら、得るものが非常に少ないからだ」という皮肉な言葉にも通じる。人々が互いに似通い、差別化できない状況では、本質的な価値が乏しいものを巡って競争はかえって激化するのである。

ではこの競争の罠をいかにして回避すべきか。ティールは事業を始める際に巨大市場のごく一部のシェアを狙う大海の中の小魚ではなく、まず支配できるほど小さな市場を見つけ、そこを完全に制圧すべきなのであるということを示唆している。PayPalは、まずeBayのパワーユーザーという明確な課題を持つ2万人のニッチ市場をターゲットにすることで、半年足らずで40%近いシェアを獲得した。Facebookも、当初の市場はハーバード大学の学生1万2千人に過ぎなかったが、その小ささゆえに10日間で60%のシェアを達成できた。彼らは小さな市場を制圧した後、同心円状に事業を拡大していった。これは全く新しい独自の価値を創造することで、競争相手が存在しない領域を創り出し、永続的な地位を築くラストムーバーとなることを目指すものである。

ただしこの破壊的な競争の本質を理解した上で、ティールはある程度の競争は避けられないものであり、それが学習や教育につながる価値を肯定している。この実用主義は独占を守るための組織論にも表れる。価値創造を志向する非ゼロサム的なナード(専門家)だけでは戦うべき時に戦えず、独占を守れない。そこに、競争に強く、勝つことを信条とするゼロサム的なアスリート(戦闘員)が必要となる。目標はあくまでミメーシス的な競争のない独占状態を創り出すことにあり、その独占を守るための戦術として競争に強い人材が必要となるのである。

政治が新しい価値を生まないゼロサムゲームの典型であるように、社会はミメーシス的な競争で満ちており、真の進歩を目指すのであればその土俵に戦略なく上がってはならない。圧倒的な違いを創造し、競争のない空間を自ら作り出すこと。そしてその平和な空間を戦う覚悟のある者たちと共に守り抜くことこそが永続的な価値を築く唯一の道なのである。

未来を歪める認知バイアス

我々の統計感覚は現実世界の構造を捉えきれていない。特に進歩や価値が生まれる領域において、我々の直感はしばしば誤った結論へと導く。その根源には世界の分布形状に関する誤解と、それに起因する未来へのアプローチの間違いという2つの大きな問題が存在する。

1つ目は、現実は正規分布ではなく、べき乗則により近いということだ。我々の日常経験は多くが線形的であり、物事の分布は平均値の周りに集まる正規分布に従うと無意識に想定している。身長や体重のように、ほとんどが平均に近く極端な例は少ないという感覚だ。これは既存のものをコピーする「1からn」の安定的で予測可能な世界観と親和性が高い。しかし、ベンチャーキャピタルの投資リターンやテクノロジーの成功が示すように、真に大きな価値が生まれる世界の現実は正規分布ではなくべき乗則に従う。べき乗則とは、ごく一握りの要因が結果の大部分を決定するという極端な不均衡分布である。VCのファンドにおいて、一つの投資先が生み出すリターンが、他の全ての投資先のリターンの合計を上回るという現象は、まさにこの法則の現れだ。ここには穏やかな平均値は存在せず、圧倒的な勝者とその他大勢しかいない。さらに、成功するスタートアップの成長は、直線的な線形グラフではなく爆発的な指数関数を描く。この急激な成長は我々の直感を裏切るため、その価値は常に過小評価されがちである。もちろん、この成長は永遠には続かず、やがて成熟期を迎えSカーブ(ロジスティック曲線)を描いて鈍化するが、新たなパラダイムシフトが起これば次のSカーブが始まり、全体として巨大な成長が続く。このように、進歩が起こる領域の現実は、穏やかな丘が連なる正規分布の世界ではなく、切り立った山々が聳え立つ、べき乗則が支配する極端な世界なのである。

この現実の形を誤解したまま未来へアプローチすると、我々は統計の罠に陥る。それは、2つ目の問題である未来を予測不可能なものと見なす不確定的未来観である。不確定的未来観とは、未来はランダムウォークであり、どの選択が成功するかは確率と統計に支配されると考える世界観だ。この思想の下では最善の戦略は多様な選択肢に分散投資するポートフォリオ理論となる。これは現代の金融工学やどの機能が当たるか分からないために行われるA/Bテスト、あるいは将来の職に備えて様々なスキルを身につけようとする学生の行動原理そのものである。この世界では、未来について唯一知ることができるのは「知ることができない」という事実だけであり、我々は運命の統計的客体の一つに過ぎない。しかし、ティールが強く主張するのは、このような統計的な未来観を捨て、確定的未来観を選ぶべきだということだ。確定的未来観とは、未来は計画し、設計し、意図的に創造できると信じる世界観である。それは統計学ではなく、月へロケットを送るように、遠い未来から逆算して計画を立てる微積分学の世界だ。全く新しいものを創造する「0から1」の進歩は統計的に分析できない。サンプルサイズが1の事象に標準偏差や大数の法則は適用できないからだ。統計的には我々は完全に暗闇の中にいる。だからこそ「0から1」を目指す者は確率論に身を委ねるのではなく、明確な計画とデザインを持って未来を決定しなければならない。

究極の悪としてのアンチキリスト

ピーター・ティールが警鐘を鳴らす未来とは、全体主義的であり、聖書における「アンチキリスト」的な世界である。現代社会が直面する核戦争、AIの暴走、生物兵器といった実存的リスクに対し、人々が求めるデフォルトの解決策はすべてを管理する「世界統一政府」だ。しかしティールによれば、この「平和と安全」を約束する究極の管理社会こそが人間の自由と真理の探求を停止させる究極の悪となり得る。彼の解釈では、アンチキリストは世界征服を企む邪悪な天才として現れるのではない。むしろ、ハルマゲドン(物理的破滅)への恐怖を利用し、「これ以上の科学技術の進歩は危険だ」と訴え、進歩の停止による普遍的な安全を約束する善意の人物として登場する可能性が高い。無神論的な枠組みでの「一つの世界か、無か」という問いは、キリスト教的な枠組みでは「アンチキリストか、ハルマゲドンか」という問いに等しい。ティールは、物理的な破滅を恐れるあまり、精神と自由の死をもたらすこの欺瞞的な救済(アンチキリスト)を受け入れてはならないと強く主張するのである。危険な自由は、安全な奴隷状態よりもはるかに価値があるというのが彼の信念だ。

教会化した機関と停滞する社会

このアンチキリスト的な未来が現実味を帯びる根拠は、現代の主要な機関が、かつての教会のように独善的で批判を許さない存在へと変質してしまったことにある。科学・政府・金融といったシステムは、かつて真理を探究する場であったが、今や安全やコンセンサスの名の下に、異論を許さない教条的な権威と化している。特に、かつて革命的であった科学はその精神を失った。1970年代以降、科学は官僚的な規制に絡め取られ、さらに過度の専門分化が進んだことで、もはや誰も全体像を把握できなくなった。この細分化と社会全体のリスク回避傾向が組み合わさることで、科学の世界には新たなタブーが生まれた。ダーウィニズムや気候変動への疑問、あるいは科学の停滞そのものを議論することすら異端として排除されかねないのだ。COVID-19への対応で見られたように、健全な懐疑主義を許さず科学の名の下に非科学的な教条を振りかざす狂った教会へと成り果てたのである。皮肉なことにかつて科学の進歩を妨げると非難されたキリスト教は今や創世記の地の支配の記述などを根拠に、危険な科学技術を可能にしたとして逆に非難されるようになっている。この制度的硬直は科学に限らない。政府はアフガニスタンからの撤退失敗が示すように、リベラルな民主主義を築いているという20年間の自己欺瞞のコンセンサスに誰も疑問を呈さなかった。FDAが全世界の医薬品を、原子力規制委員会が世界の原子力を事実上支配しているように穏健な形での世界政府はすでに実現しつつある。これらの機関は進歩がもたらすリスクを過度に恐れ、イノベーションにブレーキをかける。その結果社会全体の技術的発展は深刻な停滞に陥るのだ。アメリカの社会制度はすべて成長を前提に設計されており、科学技術の発展、すなわち「0から1」の創造が停滞し、経済成長への期待が崩壊すれば、社会は既存のパイを奪い合うゼロサムゲームの様相を呈する。新しい価値が生み出されなければ人々の思考もまた縮小再生産へと向かう。機能するものをコピーするだけの「1からn」の発想やより安い労働力を求めるグローバリズム、あるいは既存の富の再分配に固執する思想が蔓延する。これらはすべて、社会のパイがもはや大きくならないという悲観的な認識から生まれる症状であり、他者の創造した価値に依存して生きようとする寄生的な人間を増やすことに他ならない。

政治という次善の策とテクノロジーへの回帰

この社会の停滞と精神の腐敗を打破するため、ティールは政治的な行動を選択した。2016年にトランプを支持したのは、彼が少なくとも甘ったるいブッシュの戯言を言わない人物であり、何かがおかしいという現状認識を口にすることで停滞したコンセンサスを破壊する可能性を秘めていたからである。シリコンバレーの多くのリーダーが2024年にトランプ支持に転じたのも、DEIのようなリベラルな解決策の完全な機能不全を悟ったからに他ならない。ティールはトランプのポピュリズムを技術的ダイナミズムを再燃させるための「依然として最良の選択肢」と見なしている。しかし、彼にとって政治への関与はあくまで次善の策に過ぎない。ティールは政治を本質的に「ゼロサムで、狂っている」有害なゲームだと断じる。それは新しい価値を創造せず、勝者と敗者を生み、必然的に敵を作り、関わる者すべてを消耗させるからだ。彼が真の解決策と見なすのは、テクノロジーの発展を加速させる新たな統治形態である。「0から1」の創造を目指すスタートアップが、成熟後、最終的に最小公分母的な悪い結果に陥る合議制の民主主義ではなく、創業者による君主制として機能する時に最も力を発揮するように、社会の進歩には明確なビジョンと強い意志が必要なのである。そして、個人の自由を守り、加速させるためにも無秩序な自由よりむしろ階層性つまり階層が生み出す分散的自由が重要となる。TiktokやInstagramのような中央集権的なプラットフォームが個々のクリエイターに自由な活動の場を与えるように、プロスポーツリーグが全チームが従う統一ルールを定め、試合日程を組み、巨額の放映権契約をまとめて分配し、審判を派遣することで公正さを保つように、安全が保証されてこそはじめて自由が手に入るいう信念に基づき、秩序ある階層構造こそが結果として個人の自由や創造性を最大化させる。ティールが見据えるのは、危険な自由を許容し、テクノロジーによって新たなフロンティアを切り拓く未来なのである。

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