飛行機の中でたまたま聴いて気に入る曲②

 海外出張で何時間も飛行機に一人で閉じこもっていて、たまたま聴いていいと思った音楽 その②

これは曲単位ではなく、Ella & Louis / Ella fitzgerald & Louis Armstrongというアルバム全曲を聞いたような気がする。中でも"They can't take that away from me"と”Cheek to Cheek”だ。歌伴がOscar Peterson 。1956年録音。誰かが「39歳でベテランの域に達し貫禄もついていたEllaがLouisの前ではかわいらしい少女のように歌う」と書いていたが、その通り。二人の歌もいいが、Petersonのピアノもいい。普段は饒舌なピアノを弾くPetersonもさすが、Louisの前では控えめで、それがよい。

実はこのアルバム、飛行機で聞く前、すでに持っていた。例によって1回聞いただけでお蔵入りしていたわけだが、このあと何回も聞くことになる。それにしても1956年という年は、ジャズの傑作がたくさん録音された年であった。

They can't take・・・について調べ始めたら、とっても親切なYannieという人のブログに行き当たった。この人のブログは至れり尽くせりでThey can't take・・・の歌詞(和訳)と、この歌が初めて歌われた"Shall we dance"という1937年のアメリカRKOのミュージカル映画の中の、どういうシーンで歌われたかまで教えてくれる。この映画はFred AstaireとGinger Rogersの名コンビのヒット作の一つだが、この歌が歌われたシーンは、わけあって偽装結婚した二人が さて、離婚しようという段になって本当に惚れてしまったAstaireが未練がましく「別れても好きな人」みたいなことを歌うのだ。するとRogersの方もジンと来る、というシーン。歌詞が気が利いていて大好き。

 The way you wear your hat  貴女の帽子のかぶり方

The way you sip your tea 貴女のお茶の呑み方

The memory of all that そんな想い出の全てを

No, no, they can't take that away from me 誰も奪えはしない

The way your smile just beams 貴女のにっこり笑顔 
The way you sing off key    音程の外れた歌
The way you haunt my dreams 僕の夢によく出てくる貴女

No, no, they can't take that away from me こんな想い出、誰も奪えはしない

この曲を作ったのは Ira Gershwin、George Gershwin兄弟だ。Georgeが作曲、気の利いた歌詞は兄のIra。特にいいのがsing off keyだ*。ひねりがある。もちろん、律儀に韻も踏んでいる。

Yannieさんのブログはこの歌が歌われたシーンのYouTube動画とリンクしているからそれも見る。(ちなみにオリジナルの英詞にもリンクが張ってある)Astaireの声量のない歌声。それがまたこういう、ややこしいシチュエーションで歌われる、ひねった歌には合う。(ストレートに「俺はお前が好きだ」と歌い上げる歌はこのシーンでは無粋になるし、Asaireには歌えない。)Astaireの歌を聞いているうちに涙ぐむRogers。多分二人は別れないんだろうなあ。映画全編が見たくなる。VTRコレクションのリストをチェックしたら、俺はこの映画のVTRを持っているらしいが30分くらい捜しても見つからない。VTRデッキはある。多分まだ動くだろう。

*ボサノバにもDesafinado(音痴、調子はずれ)という古い名曲がある。まだボサノバが世間に認められる前に作られたので「(ボサノバを)始めて聞くと、調子はずれに聞こえるかも知れないけれど・・・」という自虐的ニュアンスがあったか?

そして"Cheek to cheek"。これまたAsaireーRogersコンビのミュージカル映画「Top Hat」で歌われた歌。Louisがしわがれた声で”Heaven、I’m in heaven・・・”と歌い出すと天国にいる気分になる。(Top HatとはAsaireも映画でしばしば、かぶっていた「山高帽」のこと)

閑話休題:

Gershwin brothersもユダヤ系移民の子で1890年代後半に生まれた。アメリカの芸能界黄金期は1900年前後生まれのユダヤ系によって全盛期を迎えた。そもそもパラマウント、ワーナー、20世紀FOX、コロンビア、MGM、ユニバーサルといった大手映画会社もユダヤ系。スティーブンスピルバーグ、ウディーアレン、ダスティンホフマン、そして#MeToodで名をはせた映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインもユダヤ人だ。MGMの設立者の一人は子役のジュディー・ガーランドを覚醒剤漬けにし(肥満防止のため、と言われる)、ジュディが成長した後も、子供の時からジュディーに対してやっていたように左胸(心臓のあるあたり)を触っていたという。

ついでに"Cheek to cheek"の作詞作曲者は1888年生まれのIrving Berlin。彼も今でいうベラルーシに生まれたユダヤ人で5歳の時、アメリカに移民した。

それにしても、買い貯めたミュージカルのVTRどこに行ったんだろう。悔しいけど、探すのは面倒だ。死ぬまでに1回は見ときたいのだが。


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