北一輝「日本改造法案大綱」読後感①

 この本を読んで最大の収穫は「ローズ」という言葉が立派な日本語であったということを知ったことだ。中公文庫に収められた

「日本改造法案大綱」巻八 国家の権利 徴兵制の維持 註4

に当時の徴兵猶予一年志願制度(通常は3年間現役の兵として働いた後、さらに4年間後備兵となり戦時召集に応じることが義務づけられたのに対し、中等学校以上に在学する者は徴兵が猶予され、卒業後は1年間現役兵として服役するだけで予備役の士官や下士官に任命された制度)を批判して

”今の徴兵猶予は速成学士の「ローズ」物を官庁会社に売り出さんとする現経済組織より来れる者。特に彼らのほとんどすべては今の大学教育なる高等職業紹介所に入ることをもって一種の特権階級のごとく考え・・・”とある。

文意は”今の大学は「高等職業紹介所」であり、教育などしていない。まともな教育を受けずに速成され、大学を卒業したって「ローズ」物だ。徴兵忌避のために大学に入る者もいる。官庁会社軍隊は、そんな「ローズ」を有難く受け入れている”といったところか?

この「ローズ」(ろうず)は本書編集部によって「欠陥品。商品として不適格なもの。」という非常に的確な定義が付されている。

俺には熱海に親戚があって、その親戚の家では数十年前まで、観光客相手の土産物屋をやっていた。俺が子供の時にこの熱海の親戚がやっている土産屋に行ったとき、おばさんやいとこが店に置いているうちに壊れてしまった土産物を指して「ローズ」と呼んでいた。聞き覚えのない言葉だったから印象深かったんだと思う。俺はその言葉の意味を改めて聞かなくても状況から察することができた。なんとなく「ダメになったもの」という感じが伝わってくるいい表現だと思った。

以降、その親戚の店以外で「ローズ」を聞いたことがなかったので、俺は勝手に方言かあるいは親戚の店(または熱海の土産屋)の符丁だと思っていた。

そんな「ローズ」が日本改造法案大綱に使われているのを初めて知り、驚くと同時に感慨深い。

閑話休題:

司馬遼太郎と山本七平の御両人は、対談で自分たちはこの「ローズ物の下士官」だった、と認め合っている。俺も同じ。「みんなが行く」から大学に行き、会社に入ったローズ物だった。「ローズの下士官」論はたたき上げの軍人には受けたと思う。

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