兼原信克 著「安全保障戦略」を読む

この本は、読売(?)の書評で絶賛されていた。勢い込んで読むと違和感が。

議論展開のスタートポイントが間違っている、あるいはズレている。つまり、自衛隊を所与の前提として自衛隊違憲論に触れずに安全保障を論じている。読み続けるのがつらくなる。筆者はこのことを知っているはずだ、それに蓋をして、いくらご立派な安全保障論を展開されても全く意味はない。なぜ、自民党の党是である、平和憲法を改憲しようという議論が消えてなくなったのか?を掘り下げて欲しい。外務省勤めが長かった筆者なら、その経緯・理由を知っているはずだ。俺の推測は:朝鮮戦争発生後、アメリカは日本を戦争できる国にすべく改憲を迫ったが吉田首相以下が頑なに拒んだ・・・それならば、とアメリカは日本の占領を恒久化してアメリカ防衛のための不沈空母にし、米軍が日本で自由に振舞えるようにしようと考えた。日本人に下手に改憲の検討なんかさせると、自立やアメリカから独立することも考えるかも知れない、日本人に自立・独立や改憲など考えさせない方がよい、そのためには日本人に自分の頭で考えないように仕向けよう・・・「ごっこ」のはじまり。

筆者は自衛隊は軍隊だ、と断じている。つまり、「自衛隊は軍隊で違憲だ、その違憲の自衛隊を中心に安全保障を考える」という筋立て。1981年に東大法学部を出て外務省を振り出しに内閣官房副長官までやった男にして(だから?)こんなお粗末な論理展開しかできないのか?絶望的になったり、「いや、きっと何か事情、意図があるに違いない。」と思ったり。

以下の憲法第9条を読んで日本国において軍隊を有することは合憲だ、という屁理屈を持ち出すのは狂っているしか言いようがない。

 第九条

日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、
国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、
国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

第二項
前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、
これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

以下、本書からの引用と俺のコメント

p126引用:

また、戦後、国民が抱いた赤心の平和主義はソ連の工作対象となり、「非武装中立」のような非現実的な宣伝が左派勢力から執拗に繰り出された。吉田、岸、中曽根、橋本、小渕、小泉、麻生、安倍といった一部の優れた政治的指導者を除いて、政治指導者の間にさえ安全保障問題を忌避する雰囲気が生まれた。日本の国家としての生存本能、国家理性は麻痺した。・・・さて、池田、佐藤、田中…結構名前の挙がっていない(”優れていない”)首相がいる。これが分からない。筆者のいう優れた政治家の基準は何だ?田中角栄なんて、確かに官僚を金で転ぶようにした、という大きな罪はあるが、一方で自分の頭で考えるという点においては唯一最高ではないか?筆者はアメリカの回し者か?自分の頭で考えて改憲するなんてことは日本人にはやらせず、アメリカ軍の指揮下で自衛隊に動いてもらおう、ということか?

P127引用:

戦争は頭でするものである。武門の国である日本は、戦闘そのものに価値を置く傾向が強い。中国の様に無手勝流で、戦う前から法律戦、情報戦、心理戦を駆使して勝利を収めるという発想をしない。戦わずして勝つ将軍こそ名将である。戦場で死ぬことが美しいのではない。勇猛果敢に戦闘だけを重視し、地味な情報戦を軽視すれば、必ず負ける。それは昭和前期の日本軍の欠点と言われた。大日本帝国陸海軍軍人のように、降伏して捕虜にならず死ぬまで戦う軍隊は世界でも少ない。1000万人の国民を総動員して、次々と無意味な玉砕を続けた帝国地区海軍は意外なほど脆かった。太平洋戦争で死んだ日本人翔平は160万人(中国での戦死者40万人を除く)であるが、米軍の使者は数万人だった。「孫子」は「必死可殺」とし、最初から死ぬ気の軍隊は弱いと喝破している。玉砕は決して美しくない。戦闘を止め、玉砕のタイミングを計らねばならない司令官は辛いであろう。玉砕する軍隊は旧日本軍だけである。何としても生き残って、捕虜となっても脱走して、最後まで戦う軍隊が強いのである。それが本当の軍人である。勇猛果敢なだけでは本当の武士道ではない。それは江戸時代に歌舞伎に飾り立てられた虚飾の武士道である。室町戦国の武将たちは、詭計も調略も間諜も駆使していた。生き残るためには何でもやる。無駄なリスクは冒さない・・・俺は日本人には「最初から死ぬ気で弱い軍隊」しか持てないと思う。つまり鎌倉時代の一騎打ちならともかく、現代の国家全体を動員した戦争は日本人には不向きだ、と思う。情報戦=嘘の付き合いも苦手だ。戦国時代は日本人が例外的にケンカが強かった時期だ。(秀吉の時に日本史上、ピークに達し朝鮮にも出張った)これは、下剋上という油断もスキもない環境に、日本が陥ったからだ。これに似た時代は7世紀、物部・蘇我が天皇を差し置いて(言う事を聞かない天皇を殺して)争った時代だ。これら例外の時代以外の時代では日本人は何をしても勝つのを潔しとせず、正々堂々戦って勝つ、きれいに勝つ・・・という勝ち方に対するこだわりがあった。

p206引用:

憲法9条2項が規定する日本の絶対的非軍事化は、米軍による日本占領初期の政策そのものであり、冷戦時代にはそぐわないものであった。それを冷戦時代に墨守しようとすれば、それは、もはや、ソ連の利益以外の何物でもなかった・・・ここで筆者は自衛隊だろうが何だろうが、軍は違憲だ、とハッキリ認めている。それでも改憲を語らず、自衛隊や軍について語るのは全く理解不能。大元、ロゴスを無視して「戦略」はあり得ない。

p235引用:

中国が、一帯一路構想を唱え始めた。中国のプロジェクトが、域内の連結性向上に資し、国際スタンダードに合致するものであれば、日本も協力を惜しまない。しかし、スリランカのハンバントタ港のように、高利の借款を選挙目当ての政治指導者に売り込み、借金が返せなくなると、丸ごと99年租借するというようなプロジェクトには賛成できない。まるで、19世紀の帝国主義国家のやり口である。・・・その通り、100年、200年前に先進西側諸国がやったことを真似する…どこが悪いんだろうか?CO2排出しかり、西側先進諸国が何十年もやりたい放題やり恩恵を受けておいて、次に他の国が真似して同じことをやろうとしたら「ダメ」っておかしくないか?キューバやハワイに対して100年前にアメリカがやったことをロシアがウクライナに対してやると、どうして制裁したり非難したりするのか???99年租借って、イギリスが香港において19世紀末に行ったことだぜ。

p250引用

中国共産党は、祖法ともいうべき王道思想を捨ててて、無神論のマルクス・レーニン主義を選んだ。それは、社会格差是正のために暴力を是認する全体主義思想であり、資本家と労働者で社会を分断し、資本家階層を暴力で破壊し、労働者を代表する共産党が独裁を樹立すべきだと主張する異端の思想であった。中国共産党は、人類史に輝き続ける父祖の孔子を否定し、20世紀末には廃れてしまう共産主義思想をもって12億の民を「精神改造」することを選んだ。・・・筆者も認めるように、毛沢東がやろうとした「精神改造」はほとんど失敗した。(ただし、儒教の親や目上の人に対する孝はかなり否定できた。一番大きな失敗は経済政策だが)毛沢東の死後、経済の失敗を反省して中国共産党は共産主義を捨て、資本主義を受け入れた。(”屋号”として共産党という名前だけは残した)もともと、商売好きな中国人は、日本人なんかよりよっぽど優れた商売人になった。一方アメリカでは格差が大きくなり、自分は不当に貶められていると感じた人たちがトランプを支持し、暴力で国会を占拠した。全体主義だろうが、独裁だろうが、それで格差が縮まるなら結構ではないか?トランプが出現し、大統領になったことは、アメリカにおいて民主主義なんて無力だ、自由なんて格差を広げるだけだ、という考え方が多くの人に広まったということを意味する。民主主義や自由の方が”異端”になりつつあるのではないか?筆者は屋号・ブランドにこだわるが、これも分かってやっている。”自由””民主””法による支配”なんてブランドはすでに「オワコン」というか有害ではないか?むしろ「マルクス主義」の屋号の方が、一旦は廃れたが新しく生まれ変わり、魅力的になってきていないか?

p254引用:

今の中国は、昭和初期の日本を彷彿とさせる。成熟した国民は必ず民主化する。問題は、そのためには時間が必要であり、民主化以前に大きく道を踏み外して、対外的な冒険主義に出たりするかもしれないと言うことである。西側諸国は団結して、百年の計を以って中国に備えねばならない。・・・ものすごい上から目線。成熟すれば必ず民主化するか?俺はそうは思わない。日本は民主化したか?アメリカ国民は民主化したか?民主主義の大元のイギリス国民は民主的か?それとも日米英の国民はまだ成熟していないのか?民主化はともかく、いずれも分断され、彼らは幸せか?資本主義、民主主義は人間を幸せにするのか?この点”異端”のマルクス思想の方が当たっているのではないか????筆者がこれを書いた2020年には、それくらいのことは分かっていたのに聡明で博識な筆者がこれに目をつぶるのはなぜか?

p256引用:

米国は、歴史の短い雑多な移民の国である。しかし、米国憲法と星条旗に忠誠を誓う米国人のアイデンティティは確固としている。・・・聡明で博識な筆者は2020年時点で米国国民のアイデンティティーが確固としていると本当に信じていたのか?俺は白人至上主義者と”ダイバーシティ”好きな意識高い系の者とが分断し、アメリカ国民は再び南北戦争を始めると思っている。”確固”でなく、「」つきか過去のものか、だろう。

p263引用:

中国は、国際社会が、強い国が弱い国の領土を奪い、主権を奪い、住民の尊厳を奪い、戦争もし放題であった19世紀的な弱肉強食の世界から、人間一人一人の尊厳に同じ価値が認められ、人と人の合意だけがルールを作り出していくという自由主義的な秩序に転換してきたことを理解していない。自由主義的な世界史観に共鳴しない。いまだに19世紀的な富国強兵、弱肉強食の発想から抜け出せていない。今日の自由主義的な国際秩序を、やがて自分たちも溶け込んでいく秩序だとは思っていない。西側から押し付けられた秩序だと思い込んでいる。・・・人間一人一人の尊厳の価値が自由主義の本家、英米で認められているか?少なくとも移民や難民は尊厳が認められているとは思えない。自由ゆえに格差が大きくなって不公平なことになっているのではないか?合意それに基づく契約ってアングロサクソン、ユダヤだけが後生大事に考えているだけだろう。それを筆者は国際秩序と呼んでいる。西側ではなく、アメリカがそう言うからその他大勢は従ったふりをしてるだけだろう。アメリカに逆らったら報復だか、制裁だかを受ける。19世紀的ではないけど、20世紀21世紀的なだけで弱肉強食に違いはない。弱肉強食、帝国主義は19世紀的でなければいいのか?

p277引用:

韓国の甘えは、韓国の大国化に伴い徐々に消滅していくと思われる。米国が、半世紀にわたり忍耐強く日本の自立と自覚を促し続けたように、日本もまた、戦略的に忍耐をもって、韓国の自立と自覚を促し続けていくことが必要である・・・日本は自立し、自覚したのか?米国が日本にそれを望み、促したか?全くそんなことはない。アメリカは日本を属国のままでいさせようとし、日本も喜んでそうあり続けようとしている。その典型が筆者であり、本書はそのプロパガンタのために書かれた。自立・自覚するなら「自分の頭で考える」ようになることが必要で、自分の頭で考えればまず、国の基本である憲法を自前で作り直そうとし、自衛隊の存在を認めるべく改憲するか、憲法9条に現実を合わせるべく自衛隊を廃止し、米軍にも出て行ってもらうだろう。韓国は「自分の頭で考えることをしない=”ごっこ”の」日本を見習うべきでないし、また、意地でも見習わないだろう。

p280-281引用:

朝鮮王朝は、中国を中心とし頂点とする中華秩序を受け入れてきた国であり、紫禁城にて高位の序列を与えられ、中国を祖とする儒教文化、中国文明の一部であることを誇りにしていた国であった。近代的主権国家としての大韓民国として求められているアイデンティティとは、相容れない側面がある。さらに、中国の影響力が朝鮮半島から撤退していた新羅の三国統一以前の時代は、高句麗、新羅、百済の鼎立時代であり、もともと民族的同一性など存在していなかった。(略)韓国における反日感情は、戦後韓国の国民国家化の過程の中で、韓国人の精神的自立とアイデンティティ形成に大きな役割を果たして来た。「日本に支配されていなければ、立派な立憲君主国家になっていたはずだ」「韓国は、日本に奪われた時間と進歩と発展を取り返すのだ」「日本にできたことが、韓国にできないはずはない」という強い信念が、韓国の戦後の成長を支えて来たからである。克日(クギル)である。この日本への反発と高いプライドこそが、戦後韓国人のアイデンティティの核なのである。・・・克日の淵源は「大して日本に抵抗せず、植民地に甘んじていた」という悔恨・恥辱の念ではないか?プライドがあってそうは言えないから無理して空想・妄想する…千年以上にわたって中国の顔色を窺い続けてきたことについては、中国を祖と仰いできたからと自らに言い訳するのか?韓国から見て、日本は祖である中国に対し従順ではなく韓国より数段落ちる野蛮で卑しい国だった。そんな国の植民地に甘んじていたのは日本人の想像を超える大きな「恨」だ。

p282引用

韓国では数百万人いたといわれる奴婢(一種の奴隷。朝鮮王朝には、南北戦争前の米国と同様に、近代まで巨大な奴隷市場が存在していた。ただし、奴婢は同じ朝鮮族出身者の奴隷であり、1300万人の総人口に占める奴婢比率の高さは国際的にみても異例なほど高かった)の解放や、両班を頂点とした厳しい身分制度の解体や、ほとんど神権政治と化して韓国の政治や学問を窒息させていた両班による儒教政治の解体や、実利的な西洋学問の導入や、大学教育および国民教育の普及や、土地所有制度の整備や、産業基礎の育成など、日本統治時代に、いわゆる近代化の実態がどのように進められたのかをきちんと説明する歴史書は、いまだ少ない。(略)手を動かして労働することを嫌い、儒学の空理をもてあそび、コップの中の権力闘争に終始して、欧米の帝国主義が猖獗を極める19世紀のアジアで、国府の増大や国軍の増強に関心を払わず、血縁だけで固定された厳しい身分制度に安住した両班が支配した国を、どうやって今日の市民の国、韓国の姿に変えていったのか・・・このくだりは全く知らなかったこと。この本の最大の収穫は、韓国に関する知識だ。(筆者は在韓国日本大使館の公使だった)中国に関する記述も多いが、中国については俺の認識、知識と筆者のそれとは違いがない。

p285引用:

386世代の反日は、日本と結託していた保守派を打倒した民主化運動と結びついている。それは、国内冷戦の文脈のなかで自らが左の極であることを鮮明にするためのものであり、反独裁、反軍部、反KCIA、反日、反米、反資本主義、親北朝鮮という直線的な立場の一環である。そこでの日本のイメージは「腐敗した資本主義国家で、米国の傀儡国家で、軍国主義の復活を目指す右翼勢力が跳梁跋扈し、韓国の独裁勢力と手を結んで韓国の民主化を阻んできた」というものであり、古色蒼然とした固定観念に近い空想的なものである。・・・文在寅の理解不能な思想の正体。時が進めばなくなるのか???

p351引用:

日露戦争中に、日本は、米国と桂・タフト協定を結び、フィリピンは米国領、朝鮮半島が日本領という勢力圏の分割がなされた・・・これも知らなかった。正しく19世紀的帝国主義。アメリカがいつまでもこういった19世紀型帝国主義でいる、と思って満州傀儡帝国を作ったのは日本の判断ミスか???自分を最先端のグローバルスタンダードとし、それを真似する国が出てくると新しいスタンダードを作り、かつて自分がやっていたことには口を拭って「遅れてる」「野蛮だ」「ならず者」「制裁する」と言う。アングロサクソンの手口。筆者はこれを是とし、追随する。

末尾に読むべき本が紹介されているが、その中で読んでみたくなったのは「六韜(りくとう)」吉田松陰「講孟箚記(こうもうさっき)」「留魂録」、エズラ・ヴォーゲル「日中関係史」ジェームズ・リリー「チャイナハンズ」、長谷川毅「暗闘 スターリン、トルーマンと日本降伏」といったところ。

コメント

このブログの人気の投稿

ママーのガーリックトマト(ソース)で茄子入りミートソースを作るとうまい

松重豊さんが号泣した投稿「ロックじゃねえ!」投稿者の先生への思い(朝日新聞デジタル)

長嶋追悼:広岡さん