斎藤隆介「職人衆昔ばなし」①

敬愛する山本夏彦さんが「室内」という雑誌を創刊、編集、発行しそれに自らコラムを書いていたということは知っていた。(そのコラムを1冊にまとめたのが「日常茶飯事」という本で、この本から夏彦さんは一般的に知られるようになった)

しかし、うかつ・不覚にもその「室内」誌に斎藤隆介という児童文学者が昭和34年から41年にかけて木工や大工などの職人たちに話を聞いて文字起こししたインタビュー記事を連載していたことは全く知らなかった。

その連載を本にしたのが「職人昔ばなし」である。この本では、夏彦さんの代わりに職人たちに「昔は良かったなあ、でももう戻れない」と嘆かせる。職人たちの平均生年は1890年(明治23年)頃か?志ん生がちょうど1890年生まれ。戦争に行くには年を取りすぎていて生き残った職人たち。戦争が終わり、日本が高度成長期に入ったころ、この連載も始まった。昭和30年代、志ん生は名人としてひと花咲かせるが、職人たちは半ば引退し「昔は良かったなあ、でももう戻れない」と嘆く。残念ながら、職人たちの仕事の需要が激減し、また職人たちを支えてきた材料や道具を作る職人がいなくなっていた。

改めて老職人たちの話を読むにつけ、日本人の”モノづくり”が、流行りそうなものを売ったり、たくさん作ったり、安く作ったりする競争に向いていない、ということを実感する。(戦争ではアメリカに”勝てる戦闘機”作りで負け、最近では中国に大量生産で負けた)。

これからは大量にエネルギーを使うような”モノづくり”は流行らない。幸い?日本の人口は減る一方だ。無理矢理移民など受け入れて外国人を増やしたり原発の再開をするより、少なくなった日本人だけで、エネルギーや資源はあまり使わずその分手間暇を惜しまない日本人のこだわり・職人気質・きれい好き・無駄のなさ・仕上げのよさ・見た目のよさ・・・を好む世界中の客を相手にして生きて行く、なんてできないか?コストを無視してそういうモノを作り、コストを無視して買ってくれる数少ない人たちだけを客として生きて行く・・・なんてダメか?高く売れてコストが回収できるのならその分手間暇かけることができる=その分たくさんの日本人を食わせることができる。

大工道具商の土田一郎氏を除き、この本に登場する職人の数26名。平均生年1894年。平均修行開始年齢15.4歳。いくつかの共通するところ、特徴は:

①道具を大切にする。使いやすい道具がなければ自分で作る。いい道具は宝。名人の作ったいかにもよさそうな道具は「買えなくても(金がなくても)買っちまう」。それを丁寧に手入れして長い間使う。道具の手入れは修行の最初の段階で仕込まれる。

②手入れの行き届いた道具を使っていい仕事をしていると、無我となり恍惚となる。金を払ってでも味わいたい快感。

③腕の良し悪しは道具を見ればわかる。

③偉い人、金持ちの家に出入りさせてもらって先達のいい仕事を見せてもらうこと(目学問)は道楽といってもいいほど楽しいし、自分の仕事に役に立つ。

④和室に関わるなら、職人と言えども、茶道や華道くらいはかじっておく。

⑤「これはできません」ってことの言えねえ商売

⑥1世代前、2世代前(明治初年生まれ)の名人の仕事にすごいと感心し、憧れる。そしてそういう名人の仕事が売りに出ていれば高くても買って慈しむ。

⑦手間暇かけて素材を入手し加工し、年季の入った手塩にかけられると命が入って来る。命のないものに命が入って何十年も何百年も生きるなら安いもの。

⑧他人の技を盗むと言っても、他人のやっているところをじっと見るわけではなく、できあがったモノを見てどうやったらそうなるか、なぜそうするのか、想像して盗む。つまり、盗む方にもそれなりの見識知識と眼力・技が必要。

⑨気に入らなきゃあ潰してやり直す。一日でできると思った仕事も良い仕事をしようと二日かけてやる。そうしたからって客は倍払ってくれる訳じゃあない。

⑩良い道具、良い素材は言い値で買う。その代り自分の作ったモノも言い値で買って欲しい。良い仕事は高いのが当然で、その品物に引き合った値段を払って、それを手に取って眺めるときの良い気分というものはない。

⑪あとがきより:「今のように労働基準法だのミンシュシュギだの言ってたんじゃ仕事が半チクになっちまわア」

※この本に書かれた職人のセリフ・・・これも斎藤隆介さんの見事な職人技・仕事だ。

閑話休題:

現役時代からそう思っていたが、改めてつくづく「給料」ってどうやって決めるべきかなあ?と思う。俺も自己評価して会社に与えるプラス・効果よりは給料の方が多い、と感じたり、仕事がうまく行き、面白くてその上金までもらっていいんだろうか、と思ったこともあった。

 1時間当たり幾ら?・・・給料に仕事の成果・出来栄えが反映されない。

 成果主義?・・・成果をどうやって測る?宣伝がうまいヤツの給料が上がる。

 働いた人の必要に応じて?・・・真面目に働く人、いい仕事をする人が損してやる気を失う。

いい知恵が浮かばない。

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