永井龍男はタイパが悪い

 永井龍男の短編小説「青梅雨(あおつゆ)」を強く推す小林秀雄の文章に接し、「青梅雨」を読む・・・事業に失敗した老夫婦と奥さんの姉、義理の娘の4人で心中する話。心中を決行する前、4人がそれぞれの時間を過ごし、死体の処理費用を工面し、風呂に入って身を清め、おもむろに死出の旅路に・・・印象深かった2つの文章:

①「いいえさ、あの翡翠を買ってもらった時分が、あたしの運の頂上だったんだと思ってね」

②「・・・降っていますか?」「ぬかのようなやつがね。」

①について:最近、俺自身も「あのころが俺の人生の絶頂期だったなあ」と思ったことがあった。1990年の息子の幼稚園のお遊戯会のビデオを見た時、つくづくそう思った。まだ日本も会社はおかしくなってなかった。景気の上がり下がりはあったが、人減らしや会社を売ったり買ったりはまだだった。バブルの余韻で日本全体に余裕があった・・・「今まで通りやってれば何とかなる」・・・。失望・絶望・閉塞感はなかった。ビデオに映った息子同様、無邪気に楽しかった。

②について:日本語ならではの主語の省略。雨と言わなくても、相手は「雨の事」と察してくれる・・・いちいち主語まで言う事を面倒・野暮とする。これ、英語ではなんて言うかな?と考える。Is it raining?か。あるいは、Itを略して単にrainig?だけか?ここで面白いのは、日本語では「雨が降る」と名詞+動詞だが、英語のrainという動詞には「雨」と「降る」の二つが含まれる。つまり、rainと言えば雨の事、と相手にはっきり伝わり、察してもらう必要はなくなってしまう。加えて、It・・・。時とか天気を表すのに、英語でItが使われる。時とか天気はGodがコントロールしている、ということか???Godの意志によらないで雨は降らず、風も吹かないということか?

永井龍男さんの短編小説は言葉を切り詰めるだけ切り詰め、削りに削る。ものすごく時間や手間をかけているのではないか?読み飛ばすと書いてあることの意味が分からなくなり、通らなくなる。そこで読み直すことになる。それも本の読み方だ。永井さんの文章にはそうさせる力がある。

つまり書く方も読むほうもタイパが悪い。それが日本人のDNA,性分ではないか?

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