二代目 桂小南 「噺家は喋るな」 芸論

 1982年 立花書房刊 落語案内 より 「噺家は喋るな」 抜粋

年季の入ったコックさんは、動きに無駄がありませんね。お寿司にしても、同じ品物で握ったものなのに味が違う。不思議ですね。これが年季なんです。落語家も、その職人であれと若い人にいいます。落語屋、芸能人、タレントでなく職人でいいのだと思います。わかっていても、つい無駄喋りをしてしまいます。

ここにおりました一人の男、名前を与太郎と申しまして、毎度お馴染みの愛嬌者、この男の親父の弟に源兵衛と申します人、つまり与太郎さんには叔父さんに当たるわけで、年が五十歳。どういうわけですかこの叔父さん、与太郎さん大変に可愛がっております。今日も今日とて与太郎さん、ひょこひょこと叔父さんの家へやって参りまして、

「叔父さん、こんにちはァ」と、声をかけますと、奥から顔を出した叔父さん、与太郎を見て、にっこり笑って、

「ああ、与太郎か、よく来たな、さア、こっちへおより、下駄をちゃんと脱ぐんだよ。さアそこへ座りなさい、いま、なんかおいしいものを出してやるから、おばあさん、与太郎が来ましたよ…」

ま、こんな具合に喋ってしまうんです。

これを

「いるか!!ああ、いたいたア。叔父さん!!」

「びっくりするじゃあないか、おばあさん、与太郎だよ。何かあったかい?」

「ようかん!おせんべ!!ウワア出た。うまい!!」

「行儀の悪い、これこれ、履物が表へとびだしてるじゃないか」

と短くして見ます。これだけで与太郎の性格、年齢、下駄のひっくり返っている土間を見せるところがおもしろいのですが、どうしても余計な言葉を入れてしまうのです。

また、同じ言葉、重ね言葉など入れないことも大切です。前期の後半で「じゃないか」と二度いってます。これが耳障りになるんです。同じ意味をしゃべるにも、「早い」「急いで」「慌てて」「飛んできて」「ああ苦しい。なんです?」と形容を変えると聞きやすい。

また、仕草、形など、なるべく無駄を省いて、身体で見せます。雪月花で1年をそれとなく表し、男女、子供、商人、乞食にいたるまで、お客様に想像していただくところに楽しさがある。

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