アボカドの食べごろ

 この2、3年間、何十回かアボカドを買って食べたが、皮をむかずに外から熟し具合、食べごろを知ることが難しい。見た目だけでは分からない。皮の色が茶っぽいのがいいのか、黒っぽいのがいいのか、それから皮にボツボツがある方がいいのか、つるんとしてる方がいいのかについて、知見を得ていない。今の所、触感で選別している。まず店頭で熟し具合をチェックするのだが、失敗成功を繰り返した結果、アボカドを触るとなんとなく熟し具合が分かるようになってきた。経験上、店頭に並んでいるものは、買ってすぐ食うと熟しが足りないものが多い。1,2日たったら食べごろになりそうなヤツを選ぶ。そして買って帰って家で食べごろまで待つ。完璧なタイミングで食う”打率”はせいぜい5割くらいか?「まだ早い」と食べないで待っているうち、熟しすぎるという失敗になることが3割。ちょっと若いかな?が2割。まず店頭で選ぶときに「質(たち)」のいいものを選び、それから家で食べごろになるまで熟成を待つ…2段階だから結構難しい。

さて、アボカドを外から触って「食べごろ」と感じるのはどういう感触か?それをここで書こうと思うと絶望的になる。

・「硬い」と「柔らかい」の中間

・指で優しく表面をこすると、ちょっと指に引っかかる感じ

以上2点を言い換えるとポリスチレンのような硬質な感触でなく、エラストマー系プラスチックのゴムとプラスチックの混ざったのという感触か?いや、これだけでは皮の感触のみ。皮の感触だけでなく、皮の下の身から発せられる熟度。「熟したよ~。食べてね~」という声を皮を通じて聞く、ということなんだが…

内田百閒先生は大手饅頭が好物だった。箱に詰められた何十個かの饅頭からどれを食べるか一つ選ぶわけだが、先生は箱の上から眺めて「どの饅頭が食べられたいのかな?」と選んだ由。これは数多(あまた)ある百閒先生のおかしな言動の中でも俺好みの逸話。百閒先生は「どの饅頭が食べられたいのか」をどうやって察知したのかなんてことについては語っていない。なにしろ芸術院会員になるよう推薦されて「イヤダカラ、イヤダ」と固辞した人なんだから。百閒先生の大手饅頭の選び方が面白く、俺も岡山に行くたびに頻繁に大手饅頭10個入りを買って真似した。百閒先生よろしく「どれが食べられたいのかな?」とやってみたが、何も感じない。俺には饅頭の声を聞く能力はなかった。(そのうち面倒になって「どれが…」の手続きを省略して大手饅頭をパクつくようになった。これだけたくさん食べるのだから大手饅頭は俺にとっても好物だ。麹と小豆の香り、薄皮の食感…)

さて、デジタル化というのはアボカドの皮をむかずに重さ、見た目、感触、匂い、温度、色…など(の変化)をセンサーで感知し、AIで食べごろや食べられたがっているヤツを知る、ということだろう。食べる人間側からすれば上述のようなややこしい「手続き」がなくなり、しかもより正しいタイミングで食べごろを知ることができる。熟しすぎて廃棄されるアボカドも減る。スマートでいいことづくめ…百閒先生はこれをどう評するだろうか?大手饅頭選びをAIに任せるとは思えない。俺だって意地でも任せない。

AIの面白くないところはロゴスがないこと。今までの経験実績を学習し「こうなれば食べごろ」と判断するだけ(帰納だけ)。俺の興味関心は「今までこうだったから今回もこうだ」ではなく、「食べごろ判断のための指標は何でそれがどうなると食べごろと言えるのか?」に始まり「その指標がそうなると食べごろになるのは何故?」に至るところ(=ロゴス)にある。ロゴスに至ればアボカド以外にも応用できる可能性がある(演繹)。20世紀までの人間の思考、技術はそういう「大元の原理」に至ろう・達しようとする欲望・ロゴスで発達してきた。俺にとって考えるとはそういうこと以外にはない。言い換えると真善美を求めるということ。

フェイク情報があふれる21世紀、真善美も揺らぐ。AIのおかげでフェイク情報、フェイク映像を作る技術もどんどん向上しつつあり、真善美なんて求めても無駄、入手した情報・映像を真か、善いか、美しいかではなく、役に立つかどうかで判断せよ、という考え方が出てきている。(例えば依存症を克服できない人が、依存症を克服した自分の姿のフェイク映像を見ることによって依存症克服のモチベーションを高めるのは役に立つとか…)

こういう事態を目の当たりすると、いつもながら「俺が現役時代にこんな訳の分からないことにならなくてよかった。」とつくづく思う。情報の処理・発信・入手の技術が人間の、知ったり考えたり判断したりする能力を超えてしまっている。原子力のパワーが人間のコントロールを越えてしまったのと同じ。なかった時代には戻れない。俺は俺の「考える」に執着し続ける。古かろうが「化石」と言われようが、そうできるのは年寄りの特権だ。


コメント

このブログの人気の投稿

ママーのガーリックトマト(ソース)で茄子入りミートソースを作るとうまい

松重豊さんが号泣した投稿「ロックじゃねえ!」投稿者の先生への思い(朝日新聞デジタル)

長嶋追悼:広岡さん