ウクライナ戦争:プレジデントオンラインより(大前研一さん)

 ウクライナ戦争の原因、経緯に関する疑問が、プレジデントオンラインン記載の佐藤優さん、大前研一さん、清水克彦さんの記事で大体解消したように思う。

<大前研一さん:2014年のロシアーウクライナ紛争の経緯から説き起こす…結局ゼレンンスキーの生意気さ、不誠実、パフォーマンスにプーチンがキレた、ということ。

 日本人は「アメリカ脳」の見方になりやすいから、「ロシア脳」に頭を切り替えて情勢を判断することが重要だ。プーチンがなぜキレているのかを理解するには「プーチン脳」で考えてみるしかない。

ゼレンスキーの支持率は、2019年の就任時には約8割と高かった。過去の大統領や首相は私腹を肥やす悪い連中がほとんどだったから、過度な期待があったのだ。しかし、実際に就任すると「やはり政治の素人じゃダメだ」と、支持率は約3割まで落ちた。人気を失ったゼレンスキーは、EU加盟、NATO加盟を掲げた。EU加盟を望む国民は多いから支持率は上がる。ウクライナ人の多くがEU加盟を望むのは、EU内を自由に往来し就業もできる「EUのパスポート」が欲しいからだ。現在のロシア軍と戦うウクライナ人は愛国心の塊に見えるけれど、彼らはもともと自分の国があまり好きではない。私は何回もウクライナを訪問しているが、若い人は特に、ウクライナを離れてEUやアメリカなどで働きたいと話していた。プーチンもウクライナ人の愛国心は薄いと判断したから、2日でケリがつくと踏んで侵攻したのだろう。

そもそもプーチンのイライラは、ゼレンスキーが大統領に就任した頃から始まっていた。ゼレンスキーが「ミンスク合意なんて知らないよ」という態度を見せていたからだ。ミンスク合意は、ウクライナ東部で起きたドンバス戦争を停戦させるため、14年にベラルーシの首都ミンスクで調印されたものだ。ドンバス地方は、親ロ派のドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国が実効支配していてウクライナ政府と対立していたが、クリミアロシア併合後、ウクライナ政府軍と武力衝突。ロシアは非公式な軍隊(準軍事組織=ワグネル?)を送り込んだ。14年の合意ではウクライナ、ロシア、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国、OSCE(欧州安全保障協力機構)の代表が調印し、翌15年にはドイツ、フランスが仲介して「ミンスク2」が調印されている。合意内容には、停戦とともにウクライナの憲法を改正し、ドンバス地方に“特別な地位”を与えると規定している。ウクライナの東側、ドネツク州とルガンスク州はおよそ3割がロシア系だが、「人民共和国」とした地域に限ればクリミアと同じく7割を占める。彼らはドンバス地方の東側50キロほどをぶん取ってロシアとの間に緩衝地帯をつくっていた。この地域に自治権を認めるというのがミンスク合意だった。ところが、自国の東部地域をロシアに実効支配されるのを恐れたウクライナは、ロシアからミンスク合意の履行を迫られても、なかなか実行しようとしなかった。国連安保理も2015年にミンスク合意の履行を求める決議を全会一致で承認していた。

2019年に大統領になったゼレンスキーは「あの合意はウクライナが不利な条件を押しつけられたもの」と公然と言い出した。苦労して調印した合意を反故にするのだから、プーチンから見れば、大馬鹿野郎だろう。

ロシアがキーウまで進軍した本当の狙いは、クリミア住人の年金の財源ではないかと私はにらんでいる。というのも、2014年に向こうから頼まれてクリミアを併合したのはいいが、ウクライナはクリミア住民の年金基金を渡さなかったため、ロシアがクリミア住民約270万人分の年金を負担しなければならなくなってしまったからだ。自国の年金事情も決して楽ではないロシアに、そんな余裕があるはずがない。(クリミア統合は、クリミアの住民投票で決まった、とロシアは言い張ったが住民投票がウクライナ憲法に定めた要件を満たしておらずまた、ロシア軍が駐留する中での投票で、その結果は認められないと国連安保理にかけられた。ロシアは拒否権を行使。やむなく同趣旨の国連総会決議が採択された。ドンバス紛争について形式上ロシア軍は介入しておらず、国連はドンバス地方の自治を認めたが、ウクライナはこれに従わず、一方ロシアによるクリミア併合については無効と国連は言うのだが、ロシアはこれを無視。)

1991年に独立した時点で、ウクライナには約1900発の核弾頭があり、米ロに次ぐ世界第3位の核保有国だった。米ロ英は3カ国による安全保障を条件として、ウクライナに核兵器を放棄させた。94年の「ブダペスト覚書」だ。フランスと中国も、別々の書面でウクライナに核兵器の撤去を条件に安全保障を約束している。ところが、ゼレンスキーは222月に「ブダペスト覚書は再検討できるはずだ」と発言した。ロシアに小突きまわされるのは核兵器を手放したせいで、核を保有すれば対等に交渉できる、という意味だ。これはロシアにとって大問題だ。なにしろウクライナは核開発のノウハウを持っており、優秀な技術者も多数有しているので、その気になれば、実際に核を保有できてしまうのである。

このような事情で、今回のウクライナへの武力侵攻で、プーチンは真っ先にチョルノービリ(チェルノブイリ)原発を占領させ、また核の使用にも言及した。チョルノービリは19864月の原発事故以来、すでに機能していない。しかしながら、使用済み核燃料が保管されている。言い方を換えれば、チョルノービリには、核兵器の材料となるプルトニウムが山のようにあるのだ。ロシアとしては、ウクライナに核兵器をつくらせないために、これを押さえる必要があったのである。ウクライナは2014年に発生した「ロシア・ウクライナ紛争」以来、東部の石炭産出ができなくなり、さらにロシアに頼っていた天然ガスも不払いなどを理由にしばしば止められるようになったため、電力供給の原子力発電に対する依存割合が年々増し、現在は6割弱を原子力発電でまかなっている。ウクライナはフランス、スロバキアに次ぐ原子力発電依存国なのだ。したがって、ロシアがウクライナの原子炉15基をすべて押さえて停止させたら、ウクライナ全域がブラックアウトして、工場も操業できなくなる。つまり、工業を全部乗っ取ることができる。そうしたら、さすがのウクライナもへたってしまうだろう。

旧ワルシャワ条約機構の国々は、次々に自由主義陣営に取り込まれて、今やベラルーシとウクライナを残すだけになってしまった。ベラルーシは、独立以来、親ロシア派のアレクサンドル・ルカシェンコ氏が30年近く大統領を務めている。同国は1992年に発足したロシアと旧ソ連構成国のアルメニア、キルギス、カザフスタン、タジキスタンからなる軍事同盟「CSTO(集団安全保障条約機構)」の一員であり、1999年には両国の政治、経済、安全保障などを段階的に統合するロシア・ベラルーシ連合国家創設条約も締結するなど、ロシアとほぼ一体化していると言っていい。

ウクライナはソ連からの独立後、ロシア寄りと欧米寄りの政権が交互に入れ替わりながら、ロシアを刺激しないように中立を保っていた。ところが、ゼレンスキー大統領は、「自分たちはEUにもNATOにも入る」と宣言してしまった。ロシアのプーチン大統領からすると「親子なのにどういうつもりだ」と、ゼレンスキー氏の態度に怒り心頭だったであろうことは想像に難くないしかも、ウクライナがNATOに加盟した結果として、ロシアとの国境近くにミサイルが配備されると、モスクワまで約700キロメートルしかないのだ。ロシアという国は広大な国土を持つ大国であるが、逆に言えば16もの国々と国境線を持ち、何度も侵略されてきた歴史を持つ。有名なところでは、帝政ロシア時代の1812年に起こったナポレオンのロシア遠征、第二次世界大戦におけるナチスドイツの侵攻(独ソ戦)が挙げられる。第二次世界大戦でソ連は戦勝国であるにもかかわらず、敗戦国日本の死者数約300万人の9倍にあたる約2700万人もの死者を出している(※諸説あり)。ロシアでは、前者は「祖国戦争」、後者は「大祖国戦争」と呼ばれており、国土を脅かされることは極めてナーバスな問題なのである。このような歴史的経緯もあり、ソ連は冷戦期に東欧諸国を支配下において、NATOとの緩衝地帯としてきた。しかし、冷戦が終結して、東欧諸国がEUNATOに次々と加入したほか、かつてのソ連構成国も独立を果たした。ソ連を引き継いだロシアとしては、かつての勢力圏が西側にどんどん削り取られているという危機感があるのだ。だから、ロシアとしてはウクライナやベラルーシを緩衝地帯とするために、NATOへの加入を絶対に阻止したいのである。国防上、ゼレンスキー氏の発言を許すわけにはいかなかったのである。ロシア国民はヒトラーのような侵略者をナチと呼ぶ。プーチンがウクライナを「ナチ」と呼ぶのは、EUやNATOがロシアに侵略する道筋をつけようとしているから。

和平の仲介はトルコのエルドアン大統領かイスラエルのベネット首相。イスラエル建国の時、世界各地のユダヤ人がイスラエルに移民したが、ソ連からの移民が最大だったこともあって、ロシア・イスラエルは仲がよい。そしてユダヤ人のゼレンスキーもベネット首相とは信頼関係がある。

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